N国党・立花孝志と東京都知事選挙 ①

N国党・立花孝志 vs モラリスト ⑤」の続編の本記事であるが、衆院静岡4区補選のときのように、「東京都知事選挙」関連のみを分岐させて検証していきたい。正規の続編としては、「N国党・立花孝志 vs モラリスト ⑥」を近日中に公開を予定している。

2020年03月14日のN国党 関係先への警察の家宅捜索以後、各地の地方選挙に候補者を立てたN国党は、無投票当選を除く9つの選挙で惨敗し、その支持率の低さを露呈させた。中には総力戦で挑んだものや、市長選挙での一騎打ちなどがあったものの、奮闘空しく、怒涛のN国地方選挙ラッシュは失意のうちに幕を閉じたのである。

そしてついに、記念すべき10連敗を賭けた選挙が2020年06月に行われようとしている。それが、次期東京都知事選挙だ。
N国党から名乗りを挙げたのは、(現在は)党首 立花孝志氏ただ1人。彼は早々に9つの公約を掲げ、「NHKから国民を守る党」という党名の変更や、別団体の設立を視野に入れ、この東京都知事選挙への意気込みを見せた。

9つの公約

2020年05月07日、立花氏は動画の中で9つの公約を提示した。
以下、動画内で示されたものそのまま。

①NHKスクランブル化の実現
②NHKの戸別訪問規制
③都民1人1ヶ月10万円給付
④東京都債の発行
⑤失業率が5%を超えたら完全封鎖を解除
⑥出口戦略
⑦学校・幼稚園・保育園の再開
⑧東京オリンピックの中止
⑨Stay Homeならお金

では1つずつ、内容・妥当性・実現性などを見ていくが、一通り内容を精査した結果、重複するものや他に付随すると思われるものがあるため整理すると、解説の都合上まとめると大きくは6つ(上記太字)になった。

①NHKスクランブル化の実現

これまで通りのN国党と立花氏の公約である「NHKのスクランブル化」を、地上放送に限り東京都で実施する。

「厳しいとは思っているが、技術的にはできる」と立花氏は発言しているが、東京からの電波を受信している隣接県地域への影響は無いのだろうか。
(例)千葉県市川市は東京からの電波を受信している世帯が多い。
スクランブル化は、実現するならば全国規模で一斉にやらなければ、それこそ大問題だと思われる。訪問員被害がどうのといったレベルの話ではなくなってしまうが、その点については、今のところ説明などはされていない。

党の公約であるために真っ先に挙げたのであろうが、国政選挙での公約をそのまま「東京都知事選挙」版にしただけで、地方首長選挙の公約として正しいのかどうか、検証も調査もせずに掲げてしまうのは如何なものか。いくら当選の見込みが無いことを承知の上であるとは言え、さすがに”お座なり過ぎる”と言わざるを得ない。

もし、この隣接地域の問題に解決策があるのなら、今後、動画や会見でその解説をしてもらえれるときが来るのだろうか。

②NHKの戸別訪問規制

これは党の公約そのものではないが、良く言えば、「NHK訪問員(集金人)の被害を無くすため、一般家庭への飛び込み訪問を規制する」。悪く言えば、「立花氏の言う”NHKに対する業務妨害”を条例化する」である。
「事前にアポイントを取り、許可を得てから訪問させる。罰則付きにする」と、立花氏は合わせて説明している。

実現性の有無を度外視して見た場合、”上位の法律(放送法等)に反しないならば”という条件付ではあるものの、条例自体を制定することは可能である。が、しかし、実現性の面を考慮すると、まず不可能であると言える。

テレフォンアポイントの仕事の経験のある方や、その関連の業務を見たことのある方ならばすぐに分かると思われるが、訪問アポイントの電話というのは、未契約者が相手の場合、まずアポイント先のデータは電話帳ベースである。その電話帳も昨今では掲載世帯数が減り、新規営業先のデータとしては不十分なのだ。さらに、その電話帳から各世帯へ電話をしても、ほとんどの家庭は留守か、世帯主不在を理由に電話を切られる。十数件~数十件に電話をし続け、どうにか話のできる家庭に繋がったとしても、”訪問のアポイント”と知れた時点で、何だかんだと理由を付けられて断られるのがオチだ。
また、NHK受信料契約の場合、「テレビが無い」と嘘をつかれても確認の方法が無い。さらに、1日のうちに1人が8時間労働で頑張って電話をし続けても、訪問アポイントまで取れるのは良くて数件に過ぎない。そして、いざ約束の日時に訪問しても留守であることが少なくない。在宅時に訪問ができたとしても、ようやくそれが契約確認(受信設備有りならば契約は義務なので交渉ではない。無ければ断られるのみ。)のスタートラインだ。

つまり、事前アポイントが義務付けられた時点で、NHK訪問員は仕事にならないのだ。NHK委託会社も、業務としてはやっていけないだろう。

という狙いからの、「東京都知事選挙」の公約なのであろうが、上記のような事が明白であるということは、その影響を直接受けるNHK自体の受信料制度を先にどうにかしておく必要がある。その具体的な目処すら立っていない現状では、先で述べた上位の法律「放送法」「訪問販売法」との兼ね合いからも、こんな条例はまず通らない。

「だからNHKは害悪なのだ」という声が聞こえてきそうであるが、今すぐNHKの受信料問題や、その存在意義に関しての解決は不可能である。民放のテレビ局も使用している中継基地局などは、その設備の維持や管理はNHKが受信料等を運用して行っているため、NHKだけの問題として受信料問題を語るのがそもそも無理があるのだ。

従って「NHKの戸別訪問規制」の公約は、”画に描いた餅”であると言える。

そもそも、そういった事情があるからこそ、今まで「受信料やスクランブル化も含めて、まず先に放送法を改正する必要がある」と言い続けてここまでやって来たのではなかったのか。

③都民1人1ヶ月10万円給付

東京都内の個人や事業者等に自粛要請をする場合、自粛要請を継続する限り毎月、東京都が個人へ10万円の給付をする。その原資として、「④東京都債の発行」をする。

③と④で分けられているのでわかり難いが、これは、新型ウィルス感染対策として東京都を完全封鎖し、「④東京都債の発行」を行い「③都民1人1ヶ月10万円給付」を実施する。ということだ。

「③都民1人1ヶ月10万円給付」の話しだけを見るのであれば、特に指摘するべき点は無い。実現するのであれば有り難い話であろう。

しかし、立花氏は「地方財政法5条4号」に記されている条文の通り、都債の発行は可能である。と説明していたが、第5条には、「地方公共団体の歳出は、地方債以外の歳入をもつて、その財源としなければならない。ただし、次に掲げる場合においては、地方債をもつてその財源とすることができる。」という条文があり、(ここでは要約するが)この”次に掲げる場合”に該当する事業や用途の中には、一般人への給付等は記されていない。災害等緊急時に、ライフラインや市民の生活保持に関連する”事業・団体”への出資及び貸付が主な用途であり、個人への直接給付には使えないのである。

「地方財政法5条」に関し、2007年に滋賀県栗東市で「起債差し止め訴訟」があり、「地方債は5条各号に掲げる場合でなければ起債できず、どの号にも該当しないとなれば違法な起債」という地裁・高裁の判断を最高裁は支持している。

地方債を起債せず、国の給付金を前倒するかたちで先行して行った地方自治体があるが、予算が足りない自治体は、所有する土地や資材の売却等で資金をつくったという。

さらに、個人への給付制度や事業者への給付制度は、「持続化給付金」や「緊急小口資金」「総合支援資金」のような無利子・保証人不要の貸付制度など、救いの手はいくつも差し伸べられている。
東京都知事選挙が終わった時点でも尚、都債が本当に発行可能かどうか疑わしいこの公約は、いかがなものかと言わざるを得ない。

そして、新型ウィルス対策に紐付けて「電車を止めて仕事を止める」「タクシーを活用する」などと繰り返し、結果論で、「40歳未満の基礎疾患の無い人は死んでいない」や「もう寿命が残り少ない人は死んでも仕方ない」という旨の持論を立花氏は今(2020年05月15日現在)も続けている。

立花氏は、スウェーデンの”集団免疫”作戦を取り上げて自身の持論を正当化したいようだが、まず、スウェーデンの死者数は感染者数最多のアメリカや発生源とされている中国の倍以上となっている。
スウェーデンの国土は日本より広く、人口は東京都民とさほど変わらない。そのような国がである。それでもスウェーデンが国民から信任を得ているのには理由がある。随時新しい情報を、科学的根拠に基づいて、絶えず発信し続けている。国民へ信念と誠意を見せ続けているのだ。

加えて、「⑨Stay Homeならお金」も、この言葉だけなら問題は無いが、その説明の中で、
「バカが言って、バカが従うこと」
「家では仕事ができない。テレワークで仕事とか多くの人はできない」
「Stay Homeではなくて、正しい知識を身につけて責任を持って行動を」
「動ける人をStay Homeさせるのは違う」
と言っている。(一部要約)
まず、正しい知識を身につけてほしいのは立花氏である。

「Stay Home」とは、「家にいろ」という呼びかけではない。これを日本では言い換えて「不要不急の外出は控えましょう」と言っているのだ。生活に必要な最低限の仕事に出る人も、買い物に出る人も、全てを止めているわけではない。テレワークの推進も、それで済むなら、の話しに過ぎない。

日々の満員電車が運行される中でも感染が広がらないのは、電車の中で感染はしないという理由ではない。体調を崩した人や、少しでも心配のある人が無理な外出を控えることで、おのずと街が安全に保たれているのである。

何より立花氏が勘違いしているのは、新型ウィルスが危険ではないから日本では広まっていないのではない。広まらないように国民1人1人が気を配って協力してきたからこそ、日本はこの程度で済んでいるのだ。立花氏の言うように国民全体が自粛もせず、他者への気遣いをしないままであったなら、今この状況よりも悪化していた可能性は極めて大きい。もしそうなっていたならば、日本の死者も相当数に上り、もっと深刻化していたことは想像に難くない。

忘れてはならないのは、「死にかかっている人や、持病がある人、基礎疾患がある人は、死んでも仕方がない」と立花氏が言い続けていることである。

以前の記事でも述べたが、自粛して耐えることに意味があるのは、人そのものに免疫ができるのを待つという側面もあるが、治療薬やワクチンの完成を待っているのだ。だからこそ、最低限の経済を回しつつ、感染拡大は最少に抑えるということに気を使っている。大事なのはこのバランスなのだ。
事実、日本の製薬会社含め、世界各国で治験は進んでいる。

今でも最適とは言い難いが、現在のこのバランスを壊し、事態を悪化させる可能性を含んだ主張を繰り返すのならば、ニュースの上っ面だけをなぞったような理屈ではなく、スウェーデンのように科学的根拠に基づいた新しいエビデンスを示しつつ語っていただきたい。

少々言葉が強くなってしまったが、新型ウィルスの件には真摯な姿勢で向き合っていただくことを望んでいる。

⑤失業率が5%を超えたら完全封鎖を解除

まず、「⑥出口戦略」とは、簡単には「経済的な損害が続く状況から損失・被害を最小限にして撤退する戦略」である。

立花氏は、”経済的な損害が続く状況”を「失業者」や「自殺者」と置き換えて話している。つまり、「失業者」や「自殺者」を最小限に抑えるために、失業率が5%を超えたら、③④の前段階で行った東京都の封鎖を解除する。という趣旨だ。

大阪府の対応や休業要請の段階的解除を例に出し、失業率を考慮していないとして、失業が原因の生活苦から”自殺者”が増えると主張した。

大阪府では、遊興施設や居酒屋、飲食店は、営業時間を午前5時から午後8時までに制限するなどしていたが、立花氏はこれを批判、「時間制限で短くすると、余計に人が集中して3密を招く」との持論を発言し続けている。
上記で述べたように、自粛と経済活動のバランスを考えた場合、自粛で減った客数を賄えるだけの営業で対応するというのは理に適っているのだが、立花氏はこういった”バランス”には目を向けようとはしない。
(一部、パチンコ店などで客が集中したという報道もあり、立花氏も例に出して話しているが、ギャンブルとしての依存性や客の倫理観などには立花氏は触れていない)
失業者や自殺者の問題に関しても、様々な給付や支援が行われていることは上記でも述べた通りだ。

「失業率が5%を超えると経済が大きく傾く」という発言自体は、間違ってはいないのであろうが、③④の実現を前提とした上での「⑤失業率が5%を超えたら完全封鎖を解除」及び「⑥出口戦略」は、そこに至るまでの過程や自粛と経済活動のバランスなどに目を向けておらず、そもそも③④に実現の可能性を見出せない以上、⑤⑥も空虚なものと言う他ない。

⑦学校・幼稚園・保育園の再開

「39歳未満の基礎疾患の無い患者は誰一人亡くなっていない。新型ウィルスが死亡原因のトドメを刺しているだけ。人生の終盤を迎えている人は死んでも仕方がない。」と立花氏は主張し、「子供たちは大丈夫だから再開して行かせればいい」とした。

確かに、小中以上の学校や幼稚園・保育園に通う年齢の子供たちの重篤化の報告など大きな問題はまだ起こっていない。だが、何度も申し上げるが、それは国民1人1人の自粛と気遣いの上に成されている成果である。

幼稚園・保育園の年齢の子供たちには特に何も起きていないが、新生児や乳幼児では別である。海外では、新型ウィルスの影響とみられる川崎病の類似症状の報告が急増している。
川崎病についての詳細は下記ページ参照(国立成育医療研究センター)

幼稚園・保育園に通う子供がいる家庭では、新生児や乳幼児の兄弟がいることも大いに考えられる。2世帯家族ともなれば祖父母と同居なども当然あるだろう。そういった事情が少なくないことを考慮するならば、「子供たち自身が大丈夫だから」で済む話ではない。家族含め自分以外に被害を出さないために、まず自分自身が感染しないことが第一であり、それは子供たちであっても変わらないのだ。

さらに言うと、もし学校・幼稚園・保育園を感染元として複数の児童の家族で被害が出てしまった場合、その責任の所在の追及が始まってしまったら大問題である。現在でも、この点を警戒して学校などでは感染防止に苦慮していることは、保護者間では周知の事実である。

このように、立花氏にはそういった人道的観点が決定的に欠落していることは、これまでの記事で何度も指摘して来ているのだが、もうそれが是正されることは無いだろう。

よって、この「⑦学校・幼稚園・保育園の再開」の公約も、評価できるものではないと言わざるを得ない。

(2020年05月19日 追記)
地方によっては、その地域の感染者状況などを鑑みて順次学校等の再開は行われているようである。

⑧東京オリンピックの中止

「やっている場合ではない。中止が決定されていないので、今も人員や費用が当てられている。そんな余裕があるなら新型ウィルス対策へ回すべき」
「こんな状況下で、開催できたとしても海外から選手が来れない」
と、立花氏は語っている。

実際、米国陸連など海外の団体や各国の国内オリンピック委員会(NOC)から東京五輪・パラリンピックの開催延期を求める声も強く、米国水泳連盟も東京五輪の1年延期を求めている。世界中で「年内の開催はできない」との見方が広まっている。

これについては、”中止でなくとも1年の延期”ということが考慮される可能性も含める意味で、「中止」の意見に特に反論はないが「中止」と言い切ってしまうあたりは、極論好きの立花氏らしい。

無計画な戦略

ざっと9つの公約を見渡してみたが、特に意見せずに済みそうなものは、「⑧東京オリンピックの中止」のみである。

以前の会見で立花氏が発言した「東京都知事選挙」に向けての党名変更については、"NHKから国民を守る党"は維持、都知事選については別党(別の政治団体)の立ち上げを検討中とのことだ。
「”NHKから国民を守る党”は国政選挙向けではあるが、都知事選挙のような地方選挙では人気は無い」と立花氏は見解を示した。しかし、「N国党云々ではなく立花孝志がもう信用も人気も無い」という一般の声も散見される。
党名変更や別団体の設立に関しては、特に何も言うことは無いが、立花氏と一般市民の認識の乖離はさらに進んでいるように見える。

これまでの「東京都知事選挙」に関する立花氏の動向については下記参照。
▼ 2020年04月07日 立花氏会見
N国党・立花孝志と衆院静岡4区補選 ①:次期東京都知事選挙、出馬表明
▼ 2020年04月10日 N国党幹部会見
N国党・立花孝志 vs モラリスト ④:次期東京都知事選挙、戦略と建前

衆院静岡4区補選時に立花氏が発言していた「小池百合子氏の同姓同名」「最低3人、できればあと5人」「森友学園問題の赤木夫人の擁立」「東京の夜の仕事の候補者を擁立」については、最近では全く語られていない。
04月10日の会見では、(課税対象にするかどうかの違いはあるが)「全都民に対して1人50万円を給付したい」と立花氏は語っていたが、掲げられた公約は”10万円”である。

さて、およそ1ヶ月の間に「東京都知事選挙」について何度かその計画と戦略を語ってきた立花氏。「同姓同名は次は完全にステルスで」と言っていたことを考慮すると、その計画が仮に進んでいるのならば、それついての発言がなされないことには合点がいく。が、告示日を迎えれば、その計画が本当に進んでいたのか、元々無理な計画であったのかはすぐに明らかになる。
その他の計画については、進んでいるならば黙っているメリットは無い。

手を替え品を替え、今も抜け道を探ろうとする立花氏。別の場所では「立候補はやめるかもしれない」と取り消す可能性も示しているようだが。奇抜な作戦や奇襲は、もはや通用しない。国民の目は、すでに吟味する段階に移行しているのだから。


N国党・立花孝志と東京都知事選挙 ①(終)
→ N国党・立花孝志と東京都知事選挙 ②
→ 東京都知事選挙 同姓同名への投票とは


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