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三秋縋『君の話』を読んだ

『君の話』、このシンプルかつ無駄のないタイトルに惹かれ書店でこの本を手に取った。

親しい友人もおらず、両親とも縁を切って孤独の中で暮らす青年・天谷千尋。彼には"一度も会ったことない幼馴染"の記憶があった。とある夏の日、千尋の前に存在するはずのない幼馴染・夏凪灯花が現れる。優しい嘘と美しい喪失が織りなす、君と僕の……恋の話。      (honto商品説明より)

大正解だった。文体も鮮やかで台詞も生き生きとしていて、先が気になってしまうので2日足らずで読み終わってしまった。

《ネタバレ注意》

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義憶などのそもそもの設定が少し難解で、現実と虚構の間の話ということもあって物語の前半は、これはどういうことなんだ!?ということが多々あった。

しかしそれはこの本のB面、つまり後半の灯花目線の語りによって紐解かれていく。

孤独で何もない人生を送ってきたふたりが、唯一の家族であり友達であり恋人である互いの思い出を残して別れていく、、、

とても良かった。

そこには死と同じような、切なさを孕んだ美しさがあると思った。


特に本編のラストとなる11章『君の話』は特に美しかった。

お互いのことを理解し尽くしたふたりが、互いを欺き合い、未来(灯花にとっては残り少ない)の幸せを創っていく。その結果、現実と虚構の混ざった思い出を大切に胸に抱き、別れを迎える。儚い。


読み終わった後、ああ、美しかったという感想と共にどこからともない満足感が湧いてきた。別れの時を前に距離を保ちつつ互いのことを想い、一言一言の会話を交わす千尋と灯花が堪らなく愛おしくて思わず抱きしめたくなった。とりあえず文庫本を抱きしめておいた。

読後は”運命”を大切にしようと思ったし、何よりこの二人の人生にずっと寄り添っていたかった。物語の余韻にずっと浸っていたかった。

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ほたるのひかり やみよにきえて        はかなきわたしの こいごころよ

次、『蛍の光』を聴いた時に真っ先に思い出すのはこの話のことだと思う。

三秋さん、罪なことをする人だ。


P.S.朝の登校電車でこのnoteを書いてたら内容に浸りすぎて駅から学校までの道で近くに友達がいるのにずっと物思いに耽っていた。なにやってたんだろ

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