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わたしが自由を手放して、取り戻すまで

わたしは庭を持っていた。

広い庭で、木々が植わり、草花が生い茂り、虫たちがいて、土の香りがする。

四季折々の様相を見せるのが楽しみだった。

*

母親がやって来た。

「雑草は汚いから抜きなさい」

「でも、活き活きとしてきれいだよ。それに、雑草っていう草はなくって……」

「言うことを聞かないと、ご飯をあげません」

子供のわたしは何も言えなくて、そのうちに植木屋さんがやってきて、一面の草花を抜いて、すべてゴミ袋に入れた。

茶色い土が見えて、虫たちはいなくなった。

わたしはかなしくなり、ひとりぼっちで、庭の隅に座った。

*

それでも土があったから、それを掘り返して遊んだ。

土の中の虫たちに、わたしは嬉しくなった。

母親がやって来た。

「虫は汚い。そこはもう駄目ね」

「でも、虫だっておなじ命が……」

「言うことを聞かないと、ご飯をあげません」

子供のわたしは何も言えなくて、わたしの庭は分割されて、小さくなった。

そのうちに、業者さんがやってきて、アスファルトで舗装された。

冷たくてかたいアスファルトの上に、わたしは座った。

でも、母親がこう言うんだったら、この世の中はこういうものなんだろう。

*

狭くて固いわたしの庭で、わたしは小さくなって身動きせず、スマホで遊んだ。

楽しいことがないものだから、仮想空間に楽しさを求め、依存した。

四六時中そんなことをして、虚しさも感じていたけれど、狭くて固いわたしの庭を認めたくなかった。

そうしている内に、わたしはとても不機嫌になった。

母親がやって来た。

「どうしようもない子ね」

わたしは無視した。

「あなたの取り分はもうありません」

足が収まるか収まらないか、それくらいの場所だけ残されて、わたしの庭は没収された。

それから、ずっと、わたしは身動きできなかった。

*

大人になった今。

わたしは、没収された場所を取り戻し、木を植え、草花の種をまいている。

たまに場所を奪われてしまうこともあるけれど、わたしは権利を主張することを覚えた。

スマホばかり見て、あまりにも身動きをしなかったから、

空の美しさに感動することも、草花のにおいを感じることも、庭の端まで走ることも、できなくなってしまった。

でも、毎日毎日、わたしは子供の頃に戻りつつある。

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