2023.9.25【全文無料(投げ銭記事)】尖閣問題と日米安保条約の落とし穴
尖閣防衛には、米軍出動は期待できないと思う方がいるのは確かです。
それでも、自力で守るための方策は多々あります。
今回は、2020年に共著者の一人として出版された、元警察官であり軍事評論家である北村淳氏の共著『尖閣諸島が本当に危ない!』を参考に書き綴っていこうと思います。
アメリカ軍は、尖閣で中国とは戦わない
まず、本節の『アメリカ軍は、尖閣で中国とは戦わない』とは、冒頭で紹介した北村淳氏共著の最終章での小見出しです。
こう断言されてしまうと、
「今までバイデン大統領はじめ、何人もの米政府高官が『尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用対象だ』と言っているじゃないか!」
と疑問に思う方が殆どでしょう。
しかし、カラクリは、“日米安保条約第5条の適用対象”という言葉にあります。
では、第5条の原文を見てみましょう。
<共通の危険に対処する>
とは、実際に戦うということだけではありません。
北村氏は、こう述べています。
情報サポートという後方支援でも、条文上は十分に“共通の危険に対処”した
と見做す事ができるのです。
日本の大都市に某国のミサイルが落ちて、多大な犠牲者が出たような場合は、米国としても一緒に戦わないと同盟国としての信義が問われますが、小さな無人島、それも殆ど施設も何もない島を取られたからと言って、一々米軍が出動しなくとも、その程度は日本が自分の軍隊で守るのが当然だと国際社会は判断するでしょう。
中国の艦船がほぼ常時尖閣周辺にいたら、日本の施政権が疑われる
この条文で、もう一つ留意すべき点は、
<日本国の施政の下にある領域>
という限定です。
例えば、北方領土や竹島は日本の固有の領土であると日本政府は主張していますが、日本の施政下にはありません。
某国が竹島を攻撃したからと言って、日本の施政下にない以上、アメリカとしては“共通の危険に対処する”義務すら持ちません。
施政下とは、日本の立法、司法、行政の権限が行使されている事を指します。
例えば、尖閣海域で日本の海上保安庁の巡視船が外国船を排除していたら、それは警察権の行使ということで、日本の施政下にあることが証明されます。
しかし、現在のように、中国漁船や中国海警が日常的に接続水域や領海に入り込んで、日本側が排除できない状態では、日本の施政権に疑問の余地が生まれてしまいます。
海上保安庁の報告では、令和5年7月の1ヶ月間で接続水域侵入が28日間、延べ107隻、領海侵入は2日間、延べ6隻に達しています。
この状態の危険性を指摘したのが、アメリカの中国海洋戦略研究の権威者トシ・ヨシハラ博士で、氏はこう発言しています。
「日本とアメリカはどうするかですね」
という問いかけは、現時点こそアメリカ政府は尖閣諸島の日本の施政権を認めていますが、このまま日本政府が何もしなくて、中国艦船が我が物顔に振る舞っていたら、
「尖閣諸島は日本の施政権が及んでいない。従って日米安保条約第5条の適用対象ではない」
という政治家がアメリカに現れかねないという問題も含んでいるのでしょう。
実は、中国側もこういう事態を狙って、しつこく尖閣海域に毎日のように侵入しているのではと考えられます。
中国の領海侵出3つの手口
中国の領海侵出の手口は、南シナ海での振る舞いを見ると、その特徴的な手口がよく分かります。
以下の3つの手口が観察できます。
⑴ 弱いところから攻める
1973年に米軍がベトナム戦争から引き揚げると、翌年、中国はパラセル(西沙)諸島に駐留していた南ベトナム軍を武力排除し、軍事基地化を進めました。
共に戦っていた北ベトナムの意向なぞお構いなしに、この措置です。
北ベトナムはその後ベトナム全土を統一しますが、このパラセル(西沙)諸島の領有権を巡って、今も中国との対立が続いています。
スプラトリー(南沙)諸島はフィリピンなど5ヶ国が領有権を主張していますが、1987年に一部の環礁を中国が軍事基地化し、1992年に米軍がフィリピンから基地を引き揚げると、更に6箇所に軍事施設建設をしました。
米軍がいなくなったら、途端に侵出を加速するのです。
一方、尖閣諸島は、まだ日本と米軍の力が強いので、南シナ海ほど露骨な動きを見せていません。
強い所は用心して掛かり、まずは弱いところから攻めるというのが中国の手口です。
フィリピン、ベトナムとも現在は、米軍との協力体制を強化しつつあるのも当然です。
⑵ 国際法、国際裁判は黙殺
中国が南シナ海の殆どを領海と定義した『九段線』は、フィリピンが常設仲裁裁判所に提訴し、2016年に国連海洋法条約に基づいて、
「中国の九段線に法的根拠はなく、国際法に違反」
と、判決が下りました。
中国政府は、これを
「紙くずにすぎない」
と、居丈高に受け入れを否定しました。
中国の尖閣諸島領有の主張は、1969年に東シナ海で石油埋蔵の可能性が判明した後、1971年に急に始めたものであり、それまでには中国政府発行の地図ですら、尖閣諸島を日本の領土と表示していました。
中国の尖閣領有の主張には、国際法に則った根拠が全くありません。
⑶ 少しずつ切り取るサラミ戦術
中国のアプローチはよく『サラミ戦術』と呼ばれます。
相手の出方を見ながら、薄く、少しずつ切り取っていきます。
初めは“領有権の主張”、次に“中国漁船侵入”。
相手国の沿岸警備隊と一悶着起こして、中国海警局の“公船侵入”。
その上で漁船員に扮した民兵が上陸して、“軍事基地化”に入ります。
尖閣海域でも中国の公船が常時、侵入を続けていますが、今やニュースにもならなくなり、日本国民の関心も薄れつつあります。
そこから、漁船員が遭難を装って上陸するなどと、もう一歩を進めます。
そこで日本側が予想より強く出ると、一歩後退しますが、大したことがなければ、それを常態化させていきます。
人間の慣れという習性を利用した手口です。
中国の新たな領土領海地図
中国は、8月28日に発表した新しい地図で、従来から南シナ海の殆どを自国領海と主張していた『九段線』を更に拡張した『十段線』を示し、フィリピン、ベトナム、マレーシア、台湾が一斉に非難の声を上げました。
これに対して、中国外務省の報道官は記者会見で、
「関係方面が客観的で理性的に対応することを望む」
と、上から目線の対応をしました。
この直後に開催される東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合で、各国首脳が一同に会するのに、わざわざこんな地図を発表したら、各国に喧嘩を売っているようなものです。
習近平の独裁の下で、“皇帝”のご機嫌取りしか眼中にない中国の高官たちは、そんな忖度すらできなくなっているようです。
地図は尖閣諸島で最大の魚釣島に関しても、『釣魚島』と中国名で記載し、松野官房長官が抗議をすると、中国外務省の報道官は、
「釣魚島とそれに付属する島しょ部は中国固有の領土で、中国の地図が釣魚島を中国の領土と表記するのは当然のことだ」
と、これまた鼻先であしらうような回答をしました。
中国の伝統的な中華思想では、自国こそ国際社会の中心であり、他国と対等に話し合うとか、国際法に従うという国際常識は通用しないのです。
日本の施政権を国際社会に示す方法
これに対して、現在の日本は、
「相手を刺激しない」
「友好関係を保ちつつ」
「平和的に」
ということで、日本国民にも尖閣に上陸させないという無為無策のまま、中国のサラミ戦術を許してきました。
これではヨシハラ博士が警告するように、危機を先送りして、将来の脅威を大きくしているだけです。
これに対して、領海保全の手段として、以下の3つの手段があります。
⑴ 中国側が文句を言いにくい形で施政権を国際的に実証
⑵ サラミ戦術に対し、他分野での段階的対抗措置
⑶ 新技術による尖閣防衛体制の充実
まず、⑴の“中国側が文句を言いにくい形で施政権を国際的に実証”の最も初歩的な手段は、灯台を作ることです。
日本政府が灯台を作って国際的な海図に載れば、世界の船舶が日本の灯台のお陰で近くを航行できると認識されます。
しかし、日本政府はこれすらも怠ってきました。
昭和53(1978)年に、100隻を超える中国の武装漁船が尖閣海域に侵入し、1週間に亘る威嚇行動をした際に、政府の対応に危機感を抱いた日本青年社という団体が自力で魚釣島に灯台を建設しました。
以後、この団体が毎回100万円以上の経費を掛けて、50回以上の電池交換、保守、維持管理を行ってきました。
昭和55年にはフィリピン船が台風で遭難し、灯台を頼りに魚釣島に避難しました。
そこに蓄えられていた食料により、乗組員23名全員が助かったのです。
運輸省が、この灯台を正式な海図に記載しようとしましたが、外務省が、
「時期尚早」
とストップを掛けました。
平成17(2005)年に灯台を漸く国有化し、以後、海上保安庁が管理するようになりました。
本来、国がやらなければならない事を民間がやって、国が逆にストップしていたのですから、何をか言わんやです。
灯台と同様の航海安全のための施設建設としては、気象レーダー等の設置、悪天候時に漁船が避難できる船だまりの建設、更には測候や遭難船救援のための公務員駐在などがあります。
このように、国際的な航行安全のために領海での施設を整備するのは、正にその国の施政権の行使です。
こういう国際的な航海の安全のための対策に中国が文句をつければ、その立場を悪くするだけでしょう。
科学的調査の実施
もう1つは、科学的調査の実施です。
これについては、石垣市が昨年に続き、本年1月に2回目の海洋調査を東海大学の協力を得て行いました。
事前に海上保安庁、海上自衛隊との調整も済ませていたようで、中国の海警船2隻が妨害しようとしましたが、海上保安庁の巡視船8隻がブロックして寄せ付けませんでした。
尖閣諸島にはアホウドリやセンカクツツジなど、絶滅危惧種の動植物が少なくありません。
次の段階は、上陸しての調査でしょう。
更に他国にも参加を呼びかけて、国際的な調査団を日本主導で組織して上陸させるのも良い手段です。
もちろん、中国にも参加を呼びかけます。
とは言っても、参加するはずはないと思いますが…。
日本が国際的な調査団を組織して尖閣諸島に迎え入れるということが、日本の施政権を示すことになるのです。
防衛対策もいろいろある
第2の対策が、⑵の“サラミ戦術に対し、他分野での段階的対抗措置”です。
例えば、アメリカは中国政府幹部の海外に秘匿した個人資産を凍結するという手段をよくとります。
大体、中国政府幹部は汚職により膨大な個人財産を築き、それをいざという時のためにアメリカ、欧州、日本の銀行などに隠しています。
これを凍結することが、中国要人にとっては最も痛い対策なのです。
アメリカの資産凍結に日本も追随しているので、例えば尖閣諸島に関する意思決定を行っている中国政府幹部の金融資産凍結を、日本独自にやる事は可能でしょう。
実際に凍結しなくとも、
「こういう事をしたら凍結するぞ」
と脅すことが抑止になります。
第3の対策が、⑶の“新技術による尖閣防衛体制の充実”です。
ウクライナ戦争を見ても、ドローンや精密攻撃可能なミサイルが大きな威力を発揮しています。
例えば、上陸した中国漁民(に扮した民兵)に対して、空中ドローンで催涙ガスを撒くとか、漁船や海警船のプロペラを水中ドローンで破壊するなど、本格的な戦闘行為の前に威嚇となる手段は色々考えられます。
また、本格的な戦闘となったら現在、石垣島で配備が進められている地対空、地対艦ミサイルが有効です。
これらは台湾危機にも抑止力として働きます。
ミサイル配備がスムーズに進んでいるのも、中山義隆石垣市長の自衛隊受け入れ決断があったからです。
玉城デニー沖縄県知事のような人間だったら、とてもこうはいかなかったでしょう。
上述の海洋調査といい、ミサイル部隊受け入れといい、石垣市は我が国の最前線の護りとして貴重な貢献をしてくれています。
我々、一般国民はせめて、ふるさと納税などで石垣市を応援してあげるべきだと考えます。
例えば、『石垣市の宝「尖閣諸島」資料収集及び情報発信等事業の為の寄附』を、1000円から10万円の範囲で受け付けていますし、その他にも魅力的な食品などが多々ありますので、ふるさと納税のサイトを覗いてみては如何でしょうか。
最後までお読み頂きまして有り難うございました。
投げ銭して頂けましたら、次回の投稿の励みになります!
ここから先は
¥ 165
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?