見出し画像

【短編小説】目玉焼きのせハンバーグ



乾杯だ。



カップルが僕らの上空でグラスをぶつけ合った。



僕は目玉焼き。



炭焼きハンバーグの上に乗ってるのさ。


え?


違うよ、炭焼きだよ。炭火焼きじゃないんだよ。



炭火焼きハンバーグは美味しいだろ?

でもあまり炭の美味しさを感じられない。


だから炭の上に直接乗せて焼くんだ。



僕?


僕は鉄板焼きだよ。




じゃあお前は何もすごくないじゃんって?


そんな事言うなら勝負だ。



このカップルのどっちかのほっぺを落とした方が勝ち。


僕がそう言うとチーズのやつは不敵な笑みを浮かべた。


たまたまハンバーグの中に包まれたからって偉そうにしやがって。

自分が直接焼かれてるわけでもないのに。


お酒を一口飲むと、カップルは僕らの写真をたくさん撮った。


女の人は

かわいい〜

と言いながらずっと僕らを撮影している。


なかなか撮り終わらない。このままでは僕らは冷めてしまう。





しかし僕は知っている。





冷えたハンバーグの中のチーズが美味しくないということを。


目玉焼きは冷めても美味しいということを。







くくく…………勝った。


この勝負もらった。


女の人がずっとお店の写真を撮っていたのを僕は鉄板の上から見ていた。


この人はなかなか食べ始めない。僕の予想はあたっていた。


チーズ。冷蔵庫にいたお前はそんなこと気づくこともできなかっただろ。



今日こそはお前に勝つ。



女の人の前にはチーズインハンバーグ、男の人の前には目玉焼きのせハンバーグが置かれている。


勝負は明確だった。



チーズのやつ、見えないがきっと内側で震えているに違いない。


怖いだろう。負けるのは怖いだろう。


少しずつ冷えていく実感を、負けが近づいているのをひしひしと感じるだろう。


女は猫舌だと言ってまだハンバーグに手をつけない。


「俺の先に半分食べる?チーズ冷めないうちにもらっちゃうよ」




バカな、




チェンジなど聞いていない。




このままでは、誰のほっぺたも落とせなくなる…!


そうして交換されたハンバーグは男の口に運ばれていった。


チーズインハンバーグを一口食べた男のほっぺが、


床にぽとりと落ちた。




僕はとろとろに崩れた。




完敗だ。

サポートしていただくとさらに物語が紡がれます。