【短編小説】買ってよかったもの
遭難した。
流星群を見ようと1人山に登ったのはいいものの、灯りを持たなかった男は秋の夜にやられた。
気がついた時点で帰ることもできたが、登り続けるのは完全に意地だ。
インターネットの喧騒から離れ、静かな場所で自然を感じたい。
デジタルデトックスをするためにここまできたのだからスマホの灯りをつけることすら本末転倒だと男は考えた。
一歩ずつ登っていく。
ぱきっ
ぱきっ
と、靴の裏で枝が折れるのを感じながらひたすら登り続ける。
流星群日和なので月明かりもない。
星空の胃袋にいるような暗さだ。
虫や風の音を聞きながら頂上にたどり着くととてつもなく冷たい風が吹きつけた。
頂上に登ったからと言って解決するわけでもない。
寒さを凌ごうととりあえずテントを張ることにした。
風が吹くたびに体が震える。
立ったテントはうまくはれたか分からなかったが、少なくとも先ほどよりは風が遮られてるように感じた。
しかしまだ寒い。
ずっと我慢をしていた男は耐えられず、とうとうスマホを取り出した。
お急ぎ便で注文。
「お届け物でーす」
次の瞬間大きな荷物を抱えた男がやってきた。
「印鑑かサインお願いしますー」
言われた通りにすると、配達員は
「熱いんでお気をつけくださーい、ども、ありがとうございましたー!」
と言って去って行った。
おかげ様で暖かい。
しかしそれの明かりが強くて少し星が見えづらくなってしまったがいたしかたない。
焚き火をポチってよかったと男は心の底から思ったのだった。
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