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西に入るとだんだんタコになる夢

夢カテゴリー:悪夢 


応援団長だった小学2年生の頃

私の母は里帰り出産をした。
私の叔父にあたる母の弟がつき添ってくれたらしい。
叔父は私の産声を聞いて「しゃがれた声だねぇ」と言った。
赤ちゃんから中学生くらいまでは声帯が落ち着かなかったように思う。
風邪をひかなくてもしゃがれているけれど、とにかく風邪っぴきだった。

小学2年生の運動会で、私は一生懸命応援をした。
運動会が終わり、それぞれの教室で帰りの会をする。
一日応援し続けて、私の声はガラガラになっていた。ガラガラ声というかスカスカ声。声を出そうとすると、音が消えて透けた空気だけが外に出ていく。
その日私は日直で、スカスカで号令をかけたり、今日のまとめをしていた。
担任だった泉先生が「あなたはもう黙っておきなさい」と言った。


フラダンス部のキャプテンから、だんだんタコになる夢

「発表会は2週間後、ハワイで踊ります」
夢を見始めてすぐ、そんなことを告げられる。泉先生の口調は厳しい。
体育館にざっと100人ほどの生徒がいる中、泉先生の視線は、はっきりと私につらぬかれている。
私はこの高校でフラダンス部のキャプテンだった。
でも、私には部員100人をひっぱっていくような気前の良さはなかった。
私は夢でフィギュアスケートを習っていて、踊りがいちばんうまかったから抜擢されたのだった。
広い体育館はぎゅうぎゅうの生徒でとても小さく感じられた。
その日の練習が終わり、私は体育館を出た。

体育館は芝の生えた中庭に面している。中庭から学校の様々な棟にアクセスでき、教室棟や学生寮が周りを囲んでいる。
噴水を過ぎて丘を下ると、芝が短くなって砂地に足がつく。そこに学校の銭湯が建っていて、部活終わりによく出向いていた。校舎は洋風な造りだから、昔ながらの瓦屋根がどんと現れて不思議な時空をつくっていた。
瓦屋根は5角形にふいてあり、3方向から階段がついている。階段を上がって靴を脱ぎ男湯と女湯に分かれていく。
入り口の前で友達がそわそわと立っている。『花ざかりの君たちへ 〜イケメン♂パラダイス〜』と反対に、彼は女子生徒として入学している男の子だった。私は隙を見て彼を女湯に入れた。

どうやら世界が東と西とに分かれているらしい。夢の後半で、そんな理解が深くなっていく。高校が建っているのは東。西の世界は隣接していて、外出には十分な警戒心があった。
西には悪さが広がっていた。西はタコの世界だった。最近生徒の中でそっちに行ってしまった女の子がいて、そこではタコの奴隷になり仕事をさせられる。
どんなに人間らしかったとしてもタコの仕事を始めるとだんだんタコになる。

風呂から上がった帰り道で、私は道に迷った。
気がつくと地下鉄に乗る前のような景色があって、洞窟がいくつも並んでいた。歩いていると洞窟の中がちらちら見える。極悪な猪八戒みたいな豚さんに嵐の相葉くんが仕えている現実を目の当たりにする。相葉くんのようにときどき目にする人間たちは皆、しもべをしているようだ。そこかしこで火が焚かれていて熱い。

早く東に戻らなければ。先を急いで到着したのはタコ工場だった。
気がつくと私もタコの足をたくさん製造する仕事についていた。
つるつるしたタコの足に、吸盤を一つ一つつけていく作業だ。タコの足は食用またはタコの皮膚用になる。
部屋は階段状で、横並びの椅子が何列もある。とても暑くて窓もない。作業している手元から目をやると、奥まで赤いタコでいっぱいになっている。
働いている中には、人間、タコになりそうな人、タコがいる。
ああ、このタコも昨日までフラを踊っていたのかなあ。
やめたくてもやめられない、つい手を動かしてしまうタコの呪いが部屋中にかけられていた。

部屋のいちばん前でボスダコが目を光らせている。一際赤くてでっかい。
タコは人の言葉を話さない。巨大な図体をゆわんゆわんと揺らしながら「きゃであで」というタコの鳴き声を連呼する。

「きゃであで」
「きゃであで」

作業していると、自分の作った吸盤つきの足が腕に絡みついてくる。吸盤が腕にじゅっと吸いつくとチクっと熱い。一度はりついた吸盤は西を出ない限り取れない。身体中が熱くなって、ゆでダコになっていく。
タコのボスは通路を巡回し、作業ができたか見にくる。そうしてちゃんとはりついているかチェックするとき、腕にくっついた吸盤を一つはがされる。

ボスは全員が即座に手を挙げなければならない質問をする。
「この中にわれらのいけにえになってくれるやつはいるか?」
さっきまで鳴き声にしか聞こえなかったタコの声が言葉として耳に届いてくる。私もほかのタコと同じように腕を振るわせながら手を挙げた。
ボスは一人の働きダコをあて、製造中のタコ足を投げつけて頭をぶちぬいた。
働きダコたちはつばを飲んだ。
一部のタコは、今つくっている道具で部屋の出口の鉄格子をぶちぬくことができると理解した。
次々に隙を見て逃げ出すタコが現れた。部屋中のタコが便乗し、鉄格子にタコ足を投げつけて外に出た。

みんな一生懸命東へ走った。水路の中を泳いで逃げるタコもいた。
私は走るうちに、少しずつ人間に戻っていった。

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