夜明けの鏡5(オリジナル小説)
しばらく私はボーっとしていたけど、鳥の大きな声で我に返った。
「帰らなきゃ。」
私は急いで山道を駆け降りようとしたけど、玉が気になり、さっき言っていた、あの全身緑色の人の言葉を試してみることにした。
(本当なら、すぐに家に帰れるわね。)
でも、この玉の使い方がわからない。願いをこめればいいのだろうか?
とにかく、私は玉に願いをこめた。
「今すぐ家に帰らせて!すぐに!」
そういうと玉はまばゆく光り、目があけられないほどまぶしく輝き出した。
「うわー!?」
私は今まで感じたことのない感覚に襲われた。玉の光りが全身を包みこみながら覆う。
そして、気がつくと私は家の中にいた。
あれは何?夢だったの?
私は自分が乗って自転車を窓を開けて確かめた。
乗っていた自転車はなかった…。夢じゃないんだ。本当に不思議な玉の力を私は得たんだ。
私は確かめるように自転車が元の位置に戻るように念じた。するとまたまばゆい光りを放ち玉は輝きだした。また私の全身を包むこみながら。
窓の外を見ると自転車が元に戻っていた。本当だ!本当なんだ!
なんでも叶えられるって言っていた。私の病気も治るかもしれない。
私は精一杯の思いを念じて玉に願いを込めた。
「私の病気!どうか治って!」
そう言いながら玉に願いを込めた。
玉はまばゆく光り、私の全身を包む。
私の全身から何かが抜けてゆくのが感じられた。頭から腕から脚から、体のあらゆる部分からスーッスーッスーッと何かが抜けてゆく。
とても心地よい。
何かが抜けきった時、私は床に倒れた。
でも、こんな体の心地良さはいつからだろう?
忘れてしまう程長い間つらく苦しかった。
体の心地良さだけでもいい。
そう思って体を起こすと5分程しか経っていなかった。
私は静かに起きるとてもさわやかで体もとても軽く感じた。
これは病気が治ったに違いない…そうだ、治ったんだ!
(治った……治ったんだ!)
そう思うと私は涙が止まらなくなっていた。
このことを尚輝に言わなきゃ。
今までずいぶん苦労かけたんだ。
私は台所に行き尚輝の大好きなものを料理した。尚輝に食べてもらんだ……そうだ、真希や静佳にも、今度何かごちそうしよう。
そう思いながら料理を作っていたら尚輝が帰ってきた。
「かの子!起きてちゃダメだよ。ゆっくりしないと。」
尚輝が心配して私の肩に手を置いて言う。
「私、もう病気治ったのよ。それにほら、尚輝の大好きなもの作ったんだ。」
私がそういうと尚輝はテーブルに目をやり、たくさんの料理を見て、びっくりした顔をしている。
「かの子、気持ちは嬉しいよ。うん、かの子の優しさよくわかる。でもね、体は大切にしないと。」
「だから、病気は治ったんだよ。嘘だと思うなら明日病院行こう。」
私がそういうと尚輝は静かに椅子に腰掛けた。
そして、優しく微笑んで
「わかったよ。明日病院に行こう。でも、すごいご馳走だね。久しぶりだね、かの子と食べるの。一緒に食べよう。」
「うん、食べよう!」
私もそう言って椅子に腰掛ける。久しぶりの団欒。その夜は楽しく、ご飯を食べながら、いろんな話をした。全身緑色の人のこと、虹色に輝く玉のこと……でも、一番嬉しかったのはこうして2人でご飯が食べられたことだ。
私達の背中に月がやさしく照らしていた。
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