夜明けの鏡1(オリジナル小説)
眠れない夜は静かに時を刻む
かの子はいつものように、独り言を繰り返している。
窓側の部屋、誰もいない鏡に向かって、どこかの国のお姫様のように会釈したり、舞踏会で王子様のお相手をして踊るように、かの子は夜が暮れてゆくのも関係無く鏡に向かい語りかける
「この贈り物はあなたの為に用意したのよ。」
かの子は微笑みながら鏡に向かいひたすら夜の闇の中、語りかけ続ける……。
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かの子の過去
私、すごく内気で友達らしい友達はいなかった。今、友達と言えば職場の真希と静佳くらいしかいない。
私の職場は施設なんだけど、内気な自分が施設で働くなんて無理と思っていた。
でも、私が15歳の時、すごい高熱を出して入院した時、すごく素敵な看護師さんが優しく見守ってくれた姿を見て、私も大人になったら誰かのお役に立ちたいと思って資格を取った。
もちろんその後、病気は治り退院した。その後もその看護師の方はすごく仲良くしてくださっている。伊東美和さんっていうんだ。
美和さんは私が資格の勉強をしていて、挫けそうな時に、
「あなたはすごいものを本当は持っているのよ!自信持って!」
と励ましてくれた。
私の名前はかの子だけど、父がバンビみたいだと"鹿の子"って名づけたんだ。
"鹿の子"じゃ変だから、"かの子"になったんだけど、自分ではバンビみたいにかわいいと思ってないし、もし"鹿の子"だとしたら臆病なところかな、と思っている。
そんな私も好きになってくれる人がいて尚輝っていうんだけど、大学の頃、よく話していた。私は何も言えずに、いつもうなづくだけだった。
それでも私たちは知らない間にお付き合いを始めた。
お付き合いしてからも私は尚輝に話しかけられても、たとえばお食事なんかでも
「かの子ちゃん、何食べたい?」
と聞かれても、私は
「あの………私はなんでもいい……。」というだけ。
尚輝はすごくやさしくて、私は知らない間にとても大好きになっていた。
ある日突然、尚輝がモジモジして、なんだろう?と思うとプロポーズだった。
「あの……かの子ちゃん、俺、大事にするから。
だから、その…俺と結婚して欲しいんだ。ダメかな?」
私は泣きそうだったけど、目一杯の笑顔をつくって
「ダメじゃないよ。私、尚輝くんと結婚したい!」
私はとても足がつかないくらい、嬉しさと喜びとで体がガタガタ震えた。
「やった!絶対幸せにするからな!」
尚輝は震える私の体を抱きしめ、震えを包みこむようにやさしく抱きしめた。天地が震えても抱きしめるような尚輝のあたたかさに包まれて私はすごく幸せだった。
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