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EPIC DRUMS 00s~ (part5)

2000年以降の楽曲のみを取り上げ、流行り廃りを超えた多角的なドラム/リズム分析を目指します(アーティスト名/曲名/リリース年、の順に表記)。一応ジャズ研OBという体は最低限守りつつも年代順不同、ジャンル不問。主観全開、批判は楽しく適量で。要するに単なる長文駄文。あえて音源掲載は行いません。気になったものだけコピペ方式で。

Cisco Swank/Home/2019

マイナーチェンジ第1弾はブルックリンの新星Cisco Swankを取り上げます。強烈な「レイドバック」のかかったドラムに呼応するように、上ネタも縦横無尽。勢喜遊氏やmabanua氏など、日本でもこうしたサウンドを耳にできる機会がグッと増えたのは大変面白いところですよね。このサウンドに近付くために必要なスキルとは。できる限り頑張って言語化してみます。

都合ドラムパターンだけに着目すると、複雑な揺らぎの中にも一定のパルスを感じる。主宰の耳には限りなく「1拍5連符」に聞こえるのですよね。勿論鳴っているのは8ビートですが、やや前重心で非対称な3+2の形に近い印象。何を言ってるんだ?以下に詳しく図解します。1拍5連符×4拍分の音符を仮に○○○○○ ○○○○○ ○○○○○ ○○○○○と表記したとき、

イントロ部分でのハイハットのリズムパターンは○××○× ○××○× ○××○× ○××○×と捉えることができそう。つまり○部分で叩き、×部分は休符です。メトロノームに合わせ見様見真似で叩き始めるとなかなか再現に苦労しそうなリズムですが、無理やりにでも音符に落とし込んでみると、しくみの理解に近付けます。さらにこうした揺らぎを獲得する取り組みとして、

○×××○×× ○×××○×× ○×××○×× ○×××○××と「1拍7連符」のケースを考えてみましょう。先ほどと同様○部分で叩き×部分は休符、4+3の非対称系リズムです。ここで重要なのは、5連符か7連符かを聞き分ける能力ではなく揺らぎの正体が「リズムの非対称性」なのだと感覚的に理解できるという点です。ちょっと話が込み入ってきましたが、結びの段に入ります。

異なる連符を組み合わせて揺らぎを生み出すこともできるということです。例えば「奇数拍で1拍7連符、偶数拍で1拍5連符を叩く」発想。かなり突飛なプランですが無いではない。闇雲にタイミングをずらしたり、与太郎を演出したりするのとはまったく次元が違う。しっかり音符に落とし込み、論理的に揺らぎあるリズムを表現する意識。参考になれば幸いです。

Jose James/Save Your Love For Me/2010

せっかくマイナーチェンジしたわけですから、2~3曲まとめてレイドバック特集なぞ組んでみるのも悪くないかもしれません。この度リリース10周年のリマスター音源が発売されたばかり、Jose James屈指の名盤『Blackmagic』から不朽のスタンダードを。こちらも1拍5連符に近いフィール、非対称系のリズムを感じることができるナンバーとあいなっております。

上ネタの刻みも決してオンタイムというわけではなく、若干モタっていますよね。1つのメトロノームに合わせ、各プレーヤーがいっせーので録音したとすればこれ以上の神業っぷりはないと思います。が。これは後に菊地成孔氏のラジオで指摘された点です。残念ながら一発録りではなさそう。つまり人力ではなく、テクノロジーの力によって生み出された揺らぎだった。。

過度なネガキャンは控えたい所存ですが恥を忍んで続けますと、現代の録音技術においてアナログテープが使われる場面はめっきり減りました。ほぼ0と言って良いかもしれません。それに代わり、パソコンの画面上でマウスと僅かなキー操作だけで全て完結できるという実に残酷な時代です。キャー。嘆いてばかりもいられません、話を戻します。

つまり、7連符だの5連符だのと講釈垂れていた、あの揺らぎ感すらも簡単に生み出すことができるようになった。波形を切り貼りしたり、タイミングをちょいとずらすだけであ~ら簡単。勿論、考え方を変えれば「あえて人力」という択も生まれた。テクノロジーに頼らず、あるいはテクノロジーと共存できる道を模索することで、新しい音楽をドロップする。

当楽曲に関して言えば、ある意味で「共存ルート」のお手本的バランス感。つまり人力っぽさを演出しつつ、裏ではテクノロジーが糸を引いている形。当時ジャズ研の部室で、リアルタイムにこの曲を耳にした身としては、この先10年代の指標となるようなアレンジだったのかなあと。打ち込みサウンド主体のバンドも経験しましたから、間違いなく影響を与えた1曲。

Hiatus Kaiyote/Molasses/2014

こちらはむしろ「テクノロジーであって欲しい」とすら願った珠玉の1曲。Chris Dave派、Marcus Gilmore派は数知れどもPerrin Mossがここまで話題に上がらないとは、一端のドラマーとして異常事態。シンジラレナーイです。文脈としてはMark GuilianaやRichard Spavenといった、いわゆる「ビート・ミュージック」の流れで語られるべき1人でしょうか。

あらゆる音楽ジャンルを呑み込む。前ノリ後ノリオンタイムを自在に操る。これが録音技術の助けを借りたサウンドではなく、ライブでも寸分違わないクオリティで披露されている事実。開いた口が塞がらないとはこのことだ。とはいえドラム分析を目指す長文駄文乱文ですからちゃんと言語化します。Perrin Mossの脳内メーカーを主宰なりにイメージしてみたところですね、

文字情報の暴力になりました。あらゆる角度からあらゆるサウンドが並列に鳴らされていて、そこから適切な音を適切なタイミングでアウトプットしてくれるドラマー。説明になってませんね。例えばオフビートを意識して叩くだとか、できるだけメトロノームで細かい音符を鳴らして練習するだとか、呼吸を忘れないだとか、最早そういうレベルの音楽ではないということ。

例えばプリプロダクションの段階からどのくらいのパターンを用意して叩くものなんでしょうか。フリーハンドで音を並べました感も程よく残しつつ、曲のパートごとにきちんとした場面転換/役割分担が果たされたサウンド。狙いすましてゴーストノート、細かいパッセージが繰り出される。是非とも制作風景を見てみたいですよね。

とことん突き詰めていくと「歌心」という部分に行き着くかもしれません。リズムキープだの屋台骨だのと考えを巡らせるだけではものすごく平面的な音楽に終始してしまうのかもしれませんね。Nai Palmとバンド全体がこう、肩を組んで笑い歌うような一体感がどこかアットホームでプログレッシブ。新作が待ち遠しいです。


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