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EPIC DRUMS 00s~ (part7)

2000年以降の楽曲のみを取り上げ、流行り廃りを超えた多角的なドラム/リズム分析を目指します(アーティスト名/曲名/リリース年、の順に表記)。一応ジャズ研OBという体は最低限守りつつも年代順不同、ジャンル不問。主観全開、批判は楽しく適量で。要するに単なる長文駄文。あえて音源掲載は行いません。気になったものだけコピペ方式で。

Steely Dan/Gaslighting Abbie/2000

個人的に思い入れの深いドラマーをご紹介します。Ricky Lawson。Whitney Houston「I Will Always Love You」、Anita Baker「Sweet Love」などなど。名演の数々、もう挙げ始めればきりがありませんが後年Steely Danでの活躍が特にお気に入り。その中から、氏の職人技極まる『Two Against Nature』の1曲目を取り上げます。

まず氏に特徴的なのはリズムの「コンセプト」を明確に定めて曲をスタートさせること。具体的には、4ビートなのか8ビートなのか、それとも16分か。さらに面白いのはそれを曲中でも巧みに使い分け、あるいは絶妙に匂わせることでメリハリをつけている。「Sweet Love」でも同じ手法が見られます。メロパートでは8ビート、サビでは16ビート。リズムの重心は4ビート。

当楽曲では、8ビートに重心を置きながら裏でスネアの16分ゴーストノートが絶えず鳴り続けている。実に正確無比。これがオンビートとオフビートの役割を果たしており、頭ノリと裏ノリの両方を兼ね備えた多層的リズムに。平たく言えば「かえるの合唱」状態になっているわけです。ここはなかなか見落としがちな観点で、氏のドラムを分析する上で非常に重要な要素。

曲にメリハリや抑揚を付ける手段には種々あります。ダイナミクスの調整、そして「音符を微積分する」こと。氏が取り入れているのは後者というわけです。しかし安直に音数を増やせば音楽が盛り上がるというわけでもない。「I Will Always Love You」の大サビを思い出してみて下さい。フィルインはたったの一発。たったの一発で良いのです。

つまり大切なのは、場面によって「音符の微積分を使い分ける」こと。聴衆を納得させるのに必要な音数さえあればそれで良いというわけです。ドラムってついつい沢山叩いてしまうもの、そこをグッと堪える力が試されているのだなあと氏のドラミングに教えられた気がします。足し算ではなく引き算で、なんて言ったものですがまさしく。

MISIA/果てなく続くストーリー/2002

故・青山純氏の名演シリーズ。是非ライブバージョンでお楽しみ頂きたい。なぜこの流れで取り上げたかと申しますと、節々にRicky Lawsonみを感じるからでして。前述の「リズムのコンセプト選び」から「音符の微積分」までオーバーラップする部分が非常に多い。昭和の歌姫と平成の歌姫という対比も相まって。これはあくまで想像ですが絶対Whitney意識してますよこれ。

それもそのはず。当楽曲、後半で二度転調するシーンがあるのですが。一度目の転調前のフィルインは、青山氏の真骨頂である「一つ打ち」が炸裂している。Ricky Lawsonみを最も感じる場面です。やはり、一発で決めてきた。他にも、メロパートでのクローズドリムショット、サビのパートでは交互に打ち合わせることで場面転換を演出。細部まで無駄のない動き。

太鼓類と金物の使い分けも見事。ビートを強く打ち出す部分、主導権を管弦に渡す部分とのメリハリが効きまくっている。特にライブバージョンで強くそれが出ているように感じます。繰り返しになりますが是非映像でどうぞ。あとは流れるようなタム回し、これも語彙力を失うヤバさですよね。大サビ来ますよ、転調しますよの合図をビシビシ感じる。気配のするドラミング。

こぼれ話をひとつ。青山氏のシグネイチャーモデルを手掛けたドラムテックの今井公治氏によれば、サウンドモチーフに選んだのがまぎれもない当楽曲で、しかもライブバージョンだったという逸話が存在します。これは青山氏の死後、ブログで明らかになりました。同じ打楽器奏者やファンのみならず技術者さん達の夢を叶えてくれる、そんな偉大なドラマーを失った。

世間的には「Everything」の陰に隠れがちな楽曲ではありますがしかし主宰にとりましては圧倒的にこちらの方が再生数を数えているはず。バラードを叩く時には必ず聞き直す楽曲ですし、Ricky Lawsonの流れで青山氏を聞く、なんて場面も多い。同士の方いらっしゃいましたら是非コメント欄の方までお寄せ下さい。

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