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"Go To!"ってシェイクスピア的には「地獄へ行け!」って意味なんですけど?(透明なシェイクスピア(4))

タイトルのとおりだ。例のキャンペーン名(の省略形)。

"Go to!"ってシェイクスピア的には「地獄へ行け」って意味なんですけど??

"go to (場所名)" という普通の使い方ではなく、"Go to"で切れる命令形、シェイクスピアには頻出する。
"Go to hell"の省略形だ。婉曲表現。ようするに、

罵声だ。

あんまりたくさん出てくるから、どこを例に挙げていいかわからないくらいだけど、とりあえずこのエッセイシリーズでもとりあげた超・超有名なシーンを引用してみる。
『ハムレット』第三幕一場、"To be, or not to be"(このまま生きるか否か)の直後。オフィーリアの裏切りを知ったハムレットが絶望して、女性、いや、人類全般に対して呪いの言葉を叫ぶシーンだ。オフィーリア自身よりは、陰で盗み聞きしている偽善者たちにわざと聞かせている。

ハムレット
きさまらは化粧をする、そうだろう。神から顔をもらっておきながら、自分であらたにこねあげる。とび歩く、尻を振る、かわいこぶってくちゅくちゅしゃべって物にくだらないあだ名をつける、やってしまってから「いけないことだなんて知らなかったんですもの」などとほざく、ふざけるな! だからおれは狂った。もう誰も結婚するな。結婚してしまったやつらはしかたない、一人をのぞいて生かしておいてやる。他のやつらは一生、独身[ひとりみ]でいろ。行け、修道院へ、さあ早く。(退場)

「一人をのぞいて生かしておいてやる」が怖い。いま盗み聞きしているラスボスに、「おまえだけは許さない」と殺害予告、宣戦布告をしているわけです。
原文はこちら。

HAMLET
I have heard of your paintings too, well enough.  God has given you one face and you make yourselves another.  You jig and amble, and you lisp, you nickname God’s creatures and make your wantonness your ignorance.  Go to!  I’ll no more on ’t.  It hath made me mad.  I say, we will have no more marriages.  Those that are married already, all but one, shall live.  The rest shall keep as they are.  To a nunnery, go.  (exit)

おわかりでしょうか。
英語は少し古くて、現代英語にはない単語や言い回しもあるけれど、それはこの際どうでもいい。肝心なのは、太字で強調した部分だ。この段落でテンションが最高潮に達するポイントだ。
私はこの"Go to"を("I’ll no more on ’t"(=on it)までふくめて)
ふざけるな!
と訳している。

他の作品の他の文脈によっては、「アホか」「ほっとけ」くらいの軽い意味のときもある。でも、この箇所のハムレットの怒りは凄まじい。王子さまだからhellとか下品で不吉な単語を軽々しく口にしないだけで、テンションとしては文字どおり、

ざけんじゃねえよクソが

あっすみません。まあ王子さまだからせめて

みんな死んでしまえ

くらいですかね。(エヴァ風に)

みんな死んでしまえ」ですよ。
二度言いましたけど。

例のキャンペーン名。“Go to”で切ると、そういう意味になっちゃうんです。

現代英語じゃないから、ぜーんぜん気にしない、って言えますか?
少なくとも、縁起が悪くないですか?

それともあれですか、これ、

わざとですか?


※三幕一場、前後をふくめた翻訳はこちら。


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