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歩けなくなって気づいた「人は1人で生きてない」ってこと

11月半ば、気持ちいい秋晴れの朝だった。

2回目のワクチンの副反応もおさまって数日経った私は、プロテインをリュックに放り込み、久しぶりのジムに意気揚々と出かけた。

自転車に乗ってアパートを出て1秒後、横から来ていたバイクにぶつかってふっ飛んだ。夢かと思った。

バイクにぶつかった右足が痛すぎて身動きが取れない。
運転手の外国人留学生はどうしたらいいか分からずおろおろしていたが、同じアパートの住人が救急車を呼んでくれた。

救急車で運ばれた病院ではレントゲンも撮らずに全治5日の打撲と言われ、歩けないのに松葉杖も持たされず帰された。

タクシーでアパートの前まで帰ったのはいいものの、やっぱり足が痛すぎて一歩も踏み出せず途方に暮れた。私の部屋は2階にあるのだ。通りがかった向かいの家のおじさんがおんぶして上がってくれた。友人がすぐに病院から松葉杖を借りて数日分の食料とともに届けてくれた。

その日の夜は痛みでほとんど寝れず、やっぱり打撲にしてはおかしいと思い、前職の先輩におんぶをお願いして翌日に違う整形外科を受診。そこでレントゲンを撮ってもらうが、骨折していないと言われる。膝に血が溜まっていたので、ぶっとい注射1.5本分抜いてもらう。

医者が私の先輩を旦那か何かと勘違いして、「さくらさんの抜いた血見ますか?」「次の受診日はいつにしますか?」などと聞いていて面白かった。妻でもなく彼女でもない後輩の血を見させられた先輩の心中を思うと申し訳ない。

それから1週間、自宅で松葉杖生活をしていたが待てど暮らせど膝に力が入らない。近所でMRIを取れる病院を探して、前職の同期におんぶを依頼してアパートの下まで降ろしてもらった。

おんぶをお願いするっていうのは簡単ではない。私はぽっちゃりとまではいかないがめっちゃ軽いわけでもないので、頼んだ相手が腰をいわしてしまうのではないか、と気が気でなかった。そしておんぶなんて、普段される機会もする機会もないのが大人の世界だ。

今日まで5人の男性におんぶを依頼してきたけど、みな快く引き受けてくれ、幸い誰も腰をいわすこともなかった。本当にありがとう。


病院でMRIを撮ってくれた技師さんが、撮る前はそっけなかったのに撮った後は神妙な顔で「大変でしたね。」と言って私の足をこわれもののように扱ってくれたので、何かヤバい結果だったんだろうなと察した。

医者によると、膝のお皿の下にあるスネの骨が折れているとのことだった。

ここに金属プレートとスクリュー、人工骨を入れる手術と2−3週間の入院が必要になると言われ、呆然としているうちに入院の日程が決まった。

動かない足を抱えながら何とか入院の荷造りを終え、また友達におんぶを依頼して病院まで付き添ってもらった。この友達は最近福岡に来たフリーランス仲間で、出会ってまだ1ヶ月ほどだったが本当に良くしてくれた。

おんぶだけでなく家のこまごまとした事をやってくれ、骨折して一人暮らしは不安だろうと、入院まで頻繁に様子を見にきてくれた。

こんなにたくさんの人に良くしてもらってどうやって恩返しをすればいいのか、と頭を悩ませていた時にネットフリックスで「下妻物語」を観た。

ロリータ好きのおとなしい深キョンと暴走族の土屋アンナはひょんなことから仲良くなり、物語の終盤で深キョンはたった1人で、暴走族集団の中に土屋アンナを助けに行く。

無事暴走族を撃退して傷だらけになりながら2人でバイクで帰る中、「またお前にでっけえ借り作っちまったなあ」と言う土屋アンナに深キョンは「返さなくていいよ!」と言う。

「ああ、返さねえよ。っていうか返せねえよ、返せるわけがねえよ、でっかすぎてよ!」

っていうアンナの言葉につー、と涙がこぼれた。

そっか、この世には返せない借りがあるんだ、と思った。
それならずっと感謝の気持ちを持ち続けていよう、と思った。


手術は眠っている間に終わった。目を開けると笑顔の医者と看護師陣が私をのぞき込んでいて、「終わりましたよ!」と言われた。いつのまに眠ったのか記憶がなかったし、一瞬ここがどこなのか、何が終わったのか分からなかった。

何だ、余裕だったな〜と思ったのもつかの間、その日の夜は地獄だった。痛み止めの飲み薬、座薬、筋肉注射を限界まで処方してもらっても痛くて痛くて失神しそうだった。インドでデング熱で入院した時もここまでしんどくはなかった。

うめき声で同室のおばあちゃんの睡眠を妨げるのが忍びなかったので、ベッドの手すりをつかんで「ヒ、ヒ、フー」と出産の時に使うラマーズ呼吸法を試した。出産もしたことないのに何で「ヒ、ヒ、フー」してんだろう…何か産まれそう、と思いながら夜は明けた。

まだ自撮りする余裕があったころ

手術から数日経った今では痛みもだいぶ落ち着き、順調に回復している。医者によると1月には歩けるようになるそうだ。

今回、突如として歩けなくなり、想像以上におおごとになったので何度「あの日あのタイミングでジムに行ってなければ…」「もっと注意してれば…」と悔やんだか分からない。

でも、この事故を通して人間ってひとりで生きてないんだ、ってことが身にしみて分かった。ひとりで生きられるはずもないのに、ひとりで生きてる気になっていた自分の傲慢さを恥じた。

事故が起きる前の1-2ヶ月、私は何だか人と接することに疲れて、人付き合いを避けていた。ひとり静かにジムやサウナに通い詰めていた。

骨折して身動きが取れなくなっていろんな人に助けてもらい、それこそ、返しようがないくらいの恩を受けた。

とても高慢な言い方になってしまうのだが、今回の出来事を通じて人間っていいなって心からまた思えるようになった。

人生いろいろあるけど、また人間にもまれて生きていこうと思う。


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