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【小説】魔王が甘いから私がやる。[#007]


前回までのお話


#007 : ドラゴン

「モンスター居ませんね。狩り尽くしましたかね。」

地上を目指すことにした私とエスト様はダンジョンを進んでいた。
周辺でレベル上げをしていたせいか、なかなかモンスターが出てこない。

『楽で良いけどね。でも、レベルも上げたいし、何よりもお姉ちゃんの新しい武器を試したいよね☆』

そう、私は新たな武器の刀を携えていた。
確かに試し切りはしてみたいところである。

ダンジョンをしばらく進んで行くと、私に冬眠スキルを教えてくれた、熊型のモンスターがいた。

「エスト様は下がっててください。倒して来ます。奇襲をかけてきます。」
『やっぱり奇襲☆ うん。いよいよ新しい武器のお披露目!ワクワク☆』

私はゆっくりとモンスターに向かっていき…突然襲いかかった!

「喰らいなさい!私のフェィバリットを!ザ・グレートムダ様…愛しています!ドラゴン・ちゅクリュー!!!!!」
『か、噛んだ!そしてなんでそんな簡単に足を掴めるの!?』

…ぐるん!!!!!ドガッ!!!!!

熊型モンスターを仕留めると、モンスターを見下しながら決め台詞を放つ。

「ふふ…戦う私は美しい…。」
『まさかの武器を使わなかった☆』
「だって、刀使ったことないですし。」
『なんで選んだの!?』

「形から入るタイプなのです。」
『もうなんでもいいや⭐︎』



ダンジョンをしばらく進んで行くと巨大な広間にたどり着いた。

「こ、この広間…なんて広さなの…東京ドーム2個分はあるわね…」
『東京ドームってなに!?そんなに驚くものなの?』

「東京ドームとは、選ばれし18人の戦士が死闘を繰り広げる闘技場のようなものです。」
『な…お姉ちゃんはどんなところに居たの!?』

そうこうしてると、広間の奥から強大な気配を感じた…
そして気配の先から声が聞こえる。

「…この魔力…まさか魔王か?」

…ドシン……ドシン……

気配の主はゆっくりと近づいてくる。

「エスト様…これは…かなりヤバいです。」
私の額が脂汗で滲みだした。

『うん…そうだね…。』
「気付かれたから奇襲が出来ない…ッ!」
『んもぅ!どうしても奇襲にこだわる☆』

気配の主の姿が見えると、エスト様は震えだした。
『…ぅ…ぁ…ぁ…』

—— それは、巨大なドラゴンだった。



ドラゴンはエスト様を凝視しすると喋り出した。

「ふむ…やはり魔王か…」
『ぅ…ぅ…』

エスト様はドラゴンの圧に怯えている。
そんなエスト様を私の背後に移動させ、私はドラゴンに話しかけた。

「わ、私とエスト様は地上に行くのです!その為にも…ここを通してもらいます!」

私は会話をしつつ、エクストラスキルの 神眼 でドラゴンのステータスを確認した。

 ・名前:リンドヴルム
 ・種族:ドラゴン族
 ・レベル:300


(レベル300……!今の私のレベルは141…これはキツいか?くッ…ど、どうする…?)

「ふむ…それは構わんが……それには…我に勝てたらなーーーーーッ!!!!!」

ドラゴンは叫ぶと同時に戦闘体制をとった。
その鋭い爪と牙が月明かりに不気味に輝いている。
凄まじい殺気が私たちを襲い、息をするのも困難なほどだった。

「くっ!」
『うわぁー!』

こっちはエスト様と2人…やるしかない!私は震える手で刀を構えながら、背中に隠れているエスト様に語りかけた。

「エスト様!?戦えますか?」
声に力を込めて尋ねる。

『ぅ、うん…やるしかないよね!』
エスト様の声は震えているが、決意が感じられた。

「はい。私に考えがあります。いつものように魔法で気を逸らして貰えますか。」
『わかった!』

「いきますよ!3、2、1...」
私も低い姿勢で戦闘体制をとる。心臓が激しく鼓動を打っている。

『闇の矢よ!敵を貫け!』

『…ダークアロー!』
エスト様が詠唱を終えると、漆黒の矢が次々とドラゴンに向かって放たれた。

「よし!」

タタッ!!
魔法と同時に私はドラゴンに駆け寄った。
左右にジグザグに動きながら、ドラゴンの攻撃範囲から外れるよう注意を払う。

ドラゴンは右前脚を振り上げ、地面に叩きつけた。衝撃波が走り、私のバランスが崩れそうになる。
「くっ!」踏ん張りながら前進を続ける。

「ふん。」
ドラゴンは左手で魔法の矢を掻き消した。その瞬間を逃さず、私は全力でドラゴンの胸部に向かって跳躍した。

「てやぁっ!」
刀を両手に握り締め、渾身の力で斬りつける!

ザシュッ…!キィィン!

刀がドラゴンの鱗を削る。
金属のような音が鳴り響く。

「よし!いける!」
私の中に希望の光が差し込む。
口元には小さいながらも自信に満ちた笑みが浮かぶ。

『お姉ちゃんが…か、刀を使った…?』
エスト様は違う意味でビビってた。

「ふはは。こんな傷…ただのかすり傷だが?何を喜んでいる?鬼の娘よ。」
ドラゴンは笑いながら言った。

「ふふふ。お黙りなさい。ト・カ・ゲさん。…いいこと?よく聞きなさい?…私はね……あッははッ! なんと!食べた相手のスキルを得る事が出来るのよーッ!」
削ったドラゴンの鱗をヒラヒラさせて見せた。

「な、なんだと!」

鱗を舐め回すように見つめながら話を続ける。

「これを食べたらどんなスキルが私のものになるのかしらー?…あはは!…咆哮かしら?…それともブレスかしらー?おーっと?…エクストラスキルかもしれないわねー?」

そして、鱗を舐める。

「エ…エクストラ…!?な、そんなことが!?」

—— 慌てるドラゴンを横目に私は鱗を口にした。

ゴクン…ッ!

「あはははははは!もう遅いわよ!げぁーッはッはッははは!ぶひひひひひぃ!」

『お姉ちゃんその笑い方やめて?』
「鬼の娘…お前…ヒロインじゃないのか?」



天の声が聞こえる。

(サクラはスキル 調 を習得しました。)

「あはは…?…は………ッ?……あれ…?…えっと…」

「な、なんだ?」
ドラゴンはソワソワしている。
どうやら気にしている様子だ。

「聞き間違えかな…?あの…天の声さん?申し訳ないのですが、もう一度お願いできますか?」

(チッ!…サクラはスキル 体温調節 を習得しましたぁッ!)

「あ、やっぱり聞き間違えじゃ無かった。ありがとうございました…うん。ちょっと整理しよう。」

「えっと……ドラゴンさん?……お忙しいところ申し訳ありません…ちょっと良いですか…?えっと……あのー…やっぱり見た目からすると爬虫類…に該当しますかね…?」

「う、うむ…まぁそうなるな。」

「で、ですよねーw えへへw …ち…ちょっとターイム!」
私はジェスチャーでTを作り、ドラゴンさんにタイムの合図をだした。

「む…なんだ。タイムか。」
タイムの合図を見たドラゴンさんはすごすごと後ろに下がって行く。

『お、お姉ちゃん?』
エスト様が不安そうに私を見つめる。

「エスト様…私は鬼となり、人間ではなくなりましたが、さらには哺乳類ですらなくなりました…。」

『い、いったい何を習得したの!?』
エスト様が心配そうに私を見つめている。

「む…我がなにか申し訳ないことをしたのか…?」
ドラゴンさんが遠くから気にしている。

「ちょっと…横になりたい……横になります…」

—— 私は、この世界に来てから初めて泣いた。



その後、ドラゴンさんにめっちゃあやまったら許してくれた。

やはり倒さないと通してくれないとの事なので、今はトボトボと2人でスタート地点に戻っているところである。

『お姉ちゃん!ドラゴンさん!大きかったねー?』
「…そっすね…。」

—— 地上への道のりは果てしなく遠い。

(つづく)

※次回!エスト様の身に危険が!?

この作品は心優しいドラゴンさんとのハートフルファンタジーコメディとなります。


つづきはこちら


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