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小論文問題集みたいなコラム

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いろいろな大学・学部の、いろいろな小論文試験を、わかりやすく解説しつつ、日頃考えていることも合わせて、コラム風にまとめてみました。
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AIが書いた論文と人間が書いた論文の違い

長年、大学受験予備校で小論文講座を担当し、20代のときから情報公開や個人情報保護に関する論文・書籍をたくさん書いてきました。「読む」「書く」「話す」ことを生業としてきた経験や視点から、AIが生成した文章に対する疑問や違和感があります。 瞬時に文章を書き上げるAIの能力は本当にすごい!です。遅筆であちこちに詫びている自分からすれば、まさに人間離れした神業です。そのスピードがうらやましい!…でも、人間が書いた文章とは何かが違うんです。 では、AIが書いた論文と人間が書いた論文の違

独立自尊を理解する

以下は10年以上前にネットで拾った文章です。 慶應義塾大学への入学を希望しているのに「建学の精神」を知らなかったり、それが「独立自尊」であることは知っていても意味をつかめない受験生が大勢いました。そこで、この文章を素材にしたテストを作成し、取り組んでもらいました。実際に、論述力試験の過去問を読み解くと、ここでいう「独立自尊」を踏まえた出題が多くあります。若い人だけでなく、大人でも難解な文章かもしれません。でも良い文章です。 予備校講師が本業ですが、いろいろなところで文章を書く

病む人の支えになり、慰める

ある医学部の入試問題を紹介します。同じ文章が他大学でも出題されていて、医学部受験生に対する大学の思いが投影されていると思われます。授業で取り上げた「エンパシーとシンパシーの違い」に引き寄せて課題文を読み、自分なりに感じ取り、それを起点に考えてみることを勧めます。 なお、解答例はボクの考えを記したもので、いわゆる正解ではありません。これを批判的に考察し、自分自身の視点や論点で論述するようにしてください。 <設問> 以下の文章はある医師が自らの体験を綴ったものである。この文章を

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小論文の出題例 千葉大学教育学部適性検査 東京理科大学 ※以下、作業中 解答例 (1)遺伝子診断の問題点 (その1)  課題文は遺伝子診断によって「疾病の可能性や、場合によってはその蓋然性の大きさについても推測できる」と言うが、それが個人に幸福をもたらすとは限らない。この主張は疾病に対する深い理解を欠いている。疾病というものは実に多様である。課題文が利点として主張する発症の防止や抑制をできるものだけではない。たとえば、認知症のように不可逆的に進行し、現段階では治療困難なも

コロナ禍における小論文

 小論文の出題・テーマは同時代的なものが少なくありません。だからといって、あわててネタ本とかを漁らないようにしてくださいね。小論文は知識テストではなく思考力テストです。思考力はさまざまな形で表現できますが、その一つに課題解決型の思考力があります。ボクが授業や講座でよく使っているモデルですが、それをわかりやすく表現してみました。  現状の把握→課題の発見→課題の分析→課題の解決  これは以前に紹介した「受験生に現金?」の出題のにもみられる論理です。このように大学入試で思考力

普通に生きる

 大学受験における小論文試験は多様です。課題文が出題されて、それを要約・説明した上で、自分自身の考えを述べる…一般的には、そんなイメージかもしれません。しかし、テーマや短い記述が示されて、規定の字数内で構成や内容を自分で自由に考え、述べていく出題もあります。また、順天堂大学医学部のように一枚の写真や絵が示されて、各自が感じたことや思ったことを自由に述べるものもあります。これをボクは自由論述型と呼んでいます。  そんな小論文試験を続けてきた杏林大学医学部2018年のテーマが「普

死ぬ権利ではなく生きる権利を

※暫定公開中です  衝撃的な事件が発覚しました。ALSの患者さんを死亡させたとして、医師2人が嘱託殺人罪の容疑で逮捕されたのです。事件について「安楽死」と表現するメディアがほとんどです。しかし、それは誤解を招く表現で、医師による「殺人」に他なりません。  事件をスクープした京都新聞の記事によれば、「医師2人は被害女性の担当医ではなく、直接の面識はなかった」とのこと。この点で、医師による従来の「安楽死」事件とは、様相が大きく異なります。現段階で十分な情報がないため予断は避ける

タテ書きとヨコ書きの話

 今朝の朝日新聞の(耕論)タテ書き絶滅危惧?は、なかなか良いテーマでした。ボクが働く予備校ギョーカイでも教科や講師が両者に分かれます。また、同じ慶應義塾大学でも法学部や文学部の論文試験はタテ書き、他の学部はヨコ書きと出題形式が違います。  かつて、このテーマを取り上げた論文試験があります。岩手大学医学部2016年の出題です。課題文の掲載は著作権の関係でビミョーなので、以下にボクが書いた解答例を転載します。1段落の記述を読めば、課題文/筆者の主旨はわかると思います。筆者はタテ

ご・は・ん・を・た・べ・て・い・る・だ・け・の・か・ん・ じ・や……

 ことばには光と影があります。薬と毒と言い換えてもいいかもしれません。自戒を込めていいますが、ボクも毒をふくんだことばを言い放ち、相手を傷つけ、周囲を暗くしてしまった経験が無数にあります。「やっちまった」と軽くやりすごすことはできず、自分のひどいことばを思い出すたびに、取り返しのつかない失敗に凹むことが少なくありません…そんな毒のあることばをめぐる小論文の出題(山梨大学医学部2006年)を紹介します。   課題文が紹介したのは、あるALS(筋萎縮性側索硬化症)患者をめぐること

点と点をつなげる

 今やっていることの意味がみえない…そんな人は以下の出題・文章を読んでみてください。文中にあるジョブズ氏の以下の言葉を、ボクも実感することがあります。いつも、何事も「成るように成る」と信じて一生懸命に取り組むと、不思議なことに、点と点は「つながる」のです。 将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。  あま

輸血拒否と自己決定

 東大が後期で論文試験を行っていた時代の出題(2008年)を紹介します。課題文というか資料は、実際にあった事件の判決です。受験生だけでなく、大人にも読みづらく、わかりづらい印象を受けます。しかし、意外なことに、受験生による問1(内容説明)の正答率は高いのです。それは、判決という文章は、論文の基本(判断+理由)に忠実な文章で、理由の正しさを論理的に(順を追って)説明するものだからです。基本をマスターした受験生ならば、構成も内容もクリアにみえるため、説明しやすかったようです。  

忖度(そんたく)がみえる?

 慶應義塾大学文学部2018年の「小論文」は、とても秀逸な出題でした。直前の2017年末に流行語大賞をとった忖度をテーマにしつつ、それに一言もふれずに仕上げているからです。隠れキャラをしのばせた努力にもかかわらず、出題に忖度を見出した人は少ないようですが…  この学部の小論文の設問は、以下のとおり実にあっさりしています。 設問Ⅰ この文章を300字以上360字以内で要約しなさい。 設問Ⅱ 「自由」について、この文章をふまえて、あなたの考えを320字以上400字以内で述べな

リスクを分かち合う

 新型コロナウイルス感染症が社会・世界に拡大していく…その中で私たちが受け止めるべきは、ゼロリスクは「はかない夢」であって現実ではないということです。それは、リスクに絶望して、なすがままに任せることではありません。しっかりとリスクを向き合い、リスクに対する個人と社会の「耐性」を身につけることが大切なのです。ただ、「耐性」には大きな個人差(大きい/小さい、強い/弱いetc.)があります。そこで、多様な個人と個人がつながり、リスクを分かち合う社会的な努力こそが未来への「希望」を生

一枚の絵から感じとる

 某大学医学部の今年(2020年)の出題です。設問は以下のとおりです(絵はネットで拾ってください)。ボクが作者のファンということもありますが(笑)、いつもどおり、とても良い出題でした。 Norman RockwellのThe Runawayです。感じたことを述べなさい。(800字)  論文試験では設問の正確な把握が大切です。ここでは「感じたこと」を求めていることに注意してください。この大学のオープンキャンパスでは、毎年のように論文試験について、以下のことを強調しているよう