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忖度(そんたく)がみえる?

 慶應義塾大学文学部2018年の「小論文」は、とても秀逸な出題でした。直前の2017年末に流行語大賞をとった忖度をテーマにしつつ、それに一言もふれずに仕上げているからです。隠れキャラをしのばせた努力にもかかわらず、出題に忖度を見出した人は少ないようですが…

 この学部の小論文の設問は、以下のとおり実にあっさりしています。

設問Ⅰ この文章を300字以上360字以内で要約しなさい。
設問Ⅱ 「自由」について、この文章をふまえて、あなたの考えを320字以上400字以内で述べなさい。

 解答の鍵は設問Ⅱにあります。カギ括弧つきで表現されていることから、一般的な自由ではなく、筆者がいう「自由」であることがわかります。それを念押しするように、「この文章をふまえて」という注文もついていますよね。これらのことから設問Ⅰは、全体を要約するのではなく「自由」を中心に説明することが基本です。

 良い文章なのですが、諸般の事情からここに掲載はできません。そこで、今回は課題のフレームをYouTubeにアップしてみました。フレームのヒントになったのは、文中の以下の記述です。たった10秒の動画なのでクリックしてみてください。 ⇒ 動画をみる

権力の関係は、能動性と受動性との対立によってではなく、能動性と中動性との対立によって定義するのが正しい。

 ここでいう能動性とは個人が自発的に「する」という切り口で、受動性とは個人が「やらされる」という切り口で「自由」を描いた言葉です。筆者は「便所掃除」を例に、この「する」「される」を上手に説明しています。ボランティアのように自発的に掃除「する」のと、何かの罰として掃除をやら「される」とは確かに違います。そして、受動性には掃除を命じる権力(学校の先生みたいな…)が介在することが普通です。

 でも、この二つ以外の切り口もあるはずで、それが中動性です。権力のある人に喜んでもらったり、その見返りにごほうびをもらったり「命令されていないけど自発的に掃除する」、そんな自由もあるんじゃないのというのが筆者の課題発見であり、文章の主旨といえます。これを的確につかむのが設問Ⅰ、それを起点に自分の考えを述べるのが設問Ⅱです。

 そして、自分の考えを述べるときに格好の素材となるのが忖度をめぐる数々の事件です。そんな事件の一つが森友学園に不当に低い金額で国有地を払い下げた事件です。これを課題のフレームに即して以下に整理しました。

 能動性:官僚が自発的に安く払い下げたわけではない
 受動性:首相が官僚に安く払い下げさせることを命じたわけではない
 中動性:官僚が首相に喜んでもらおうと安く払い下げた=忖度

 ね!忖度が見えるでしょ\(^o^)/
 コロナに対する緊急事態宣言では、世の中に「自粛」が広がりました。これも忖度や中動性に通底する面があります。どこが、どのように重なるのか?ここから先は自分で考えてください。それが「学び」というものです(^^)


 

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