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小論文の出題例

千葉大学教育学部適性検査
東京理科大学
※以下、作業中

解答例
(1)遺伝子診断の問題点
(その1)
 課題文は遺伝子診断によって「疾病の可能性や、場合によってはその蓋然性の大きさについても推測できる」と言うが、それが個人に幸福をもたらすとは限らない。この主張は疾病に対する深い理解を欠いている。疾病というものは実に多様である。課題文が利点として主張する発症の防止や抑制をできるものだけではない。たとえば、認知症のように不可逆的に進行し、現段階では治療困難なものも少なくない。これらの疾病の発症可能性を知らされた人は、自分の将来に大きな不安を抱き、絶望して自暴自棄の人生を送ることになりかねない。それは本人ばかりか家族や社会にとっても不幸である。
 この問題を解決するには、課題文が指摘するように本人の意思に沿って遺伝子診断を行えば良い。しかし、私は「説明と同意」の徹底だけでは問題を解決できないと考える。人間の気持ちは揺れ動くものだ。診断前は知りたいと考えていても、診断後に遺伝子情報を知ったことを後悔する人がいるはずだ。とりわけ治療困難な病気の発症可能性を知った人は、たとえ自らが望んだ結果であっても不安を抱き、絶望するだろう。こうした事態に対応することが私の考える解決策の基本である。まず、遺伝情報が正しく理解されるように、発症可能性の意味とそれへの対応について専門家による詳しい説明が必要だ。そして、この説明結果に対する動揺を抑えるために、本人や家族に対する心理的ケアも必要不可欠である。
(その2)
 生命に優劣はない。私はこの観点から課題文の主張に反論する。課題文は遺伝子診断の結果から「良心が疾病の発病を恐れ、妊娠中絶の道をとること」を利点としてあげる。これは、疾病関連遺伝子を有する生命を劣るものとして考える優生思想に他ならない。かつての日本では、特定の遺伝性疾患のある個人に対する不妊手術が、旧優生保護法によって半ば強制的に行われてきた。この悪法がようやく廃止されたにもかかわらず、その根底にあった思想が遺伝子診断によってよみがえりかねない。特定の疾病や障害を「劣った生命」と考え、妊娠中絶で選別することは生命の尊厳を犯すばかりか、その操作を容認する点でもきわめて危険である。
 この問題を解決するには、遺伝子診断に明確な原則を設けなければならない。原則とは、生命に優劣をつけ、これを選別するために診断することの禁止である。ただし、親が重篤な遺伝性疾患の場合など、遺伝子診断を望むことが理解できる場合もある。これについては、例外的に実施できる道を用意すれば十分ではないか。たとえば、学会等で診断の可否について明確な基準を設け、倫理審査会のような第三者機関がチェックをするのだ。しかし、より根本的な問題解決のためには、病気や障害を個人的問題として、本人や家族に負担を押し付けてきた社会の変革が必要である。社会的支援が充実すれば、病気や障害があっても産む判断をしやすくなるだろう。

(2)対話する社会へ
問1 コミュニケーションは人権の一つであり、その場を確保することにより、貧困者やマイノリティが社会の中に包摂される。その始まりとなるのが対話である。対話は個人の存在や発達の前提となり、また民主主義の土台にもなる点で重要だ。ところが、最近の社会は対話にしにくく、対話の価値を認めようとしない。対話の欠如は問題があり、人間の全体性をかけた意思疎通の方法として対話する社会が必要である。(187字)
問2 「対話する社会へ」という筆者の課題認識は理解するが変革は容易ではない。この遠大な目標をまざして、私たちは何から取り組むべきなのか。対話を育むには自分の意識や行動を変えていく必要があるだろう。ただ、人間の行動は社会のあり方によっても影響・規定される。個人的な対策は必要だが、同時に社会的な対策も進めていかなければならない。
 対話にかかわる自分の意識や行動を分析すると、人間一般に通じる対話回避の原因が透けて見える。それは他者に対する無関心だ。課題文の貧困者やマイノリティという記述を読んではっと気づいたのは、対話する以前に彼・彼女らについて私はまったく関心を持っていないことだった。対話の前提には相手に対する関心があるはずで、それを欠いていては形だけの言葉のやり取りになってしまう。真の対話を展開するためには、あらゆる他者に対する関心を高めなければならない。それは記号として相手を知るのではなく、現実の存在としての彼・彼女らと向き合うことである。
 こうした個人の取り組みを支援することが社会的な対策である。効率性重視という社会的風潮を変える事は容易ではない。しかし、個人が属する組織が対話やその前提にある他者への関心を促すことはできる。たとえば、家族や学校や会社での取り組みである。こうした基礎的な単位で、自分とともに異なる他者を尊重する「アサーション」の文化を育むことが必要である。(589字)

(3)優生思想の亡霊
問1  障害者を遺伝的に「劣等」な者と扱い、ナチスは「安楽死」を行なった。同様に日本や諸外国は不妊や中絶の手術を施してきた。両者に共通するのは「共同体の負担を減らしたい」という意図に基づく点である。それが現在も「形を変えて存続している」ことへの驚きと不安が「優生思想の亡霊」の趣旨である。(140字)
問2  すべての命は等しく価値がある。これを揺るぎない信念としてきた私のところへ、出生前診断などの命の選別や尊厳死などの命の選択に悩む患者・家族が相談に訪れることがある。実際の理由は様々だが、「優生思想の亡霊」に取り憑かれたかのように見える人もいるかもしれない。そのような人たちに対して、医師である私に何ができるだろうか。
 私自身の信念に反する相談や希望である。だからと言って即座に拒否をしたり、説教をすることはできない。患者・家族もあれこれ悩んだ挙句の判断・行動であるかもしれない。まずは相手の話をよく聴き、命の行方に対して行きつ戻りつつする気持ちや言葉を引き出したい。そもそも命の価値とは普遍的なものではなく、一人ひとりが異なる「価値」と表現すべきものである。だから、本人たちが、可能であれば時間をかけて、しっかりと考える機会を設けたい。
 その上で、本人たちが命の選別や選択を選ぶときには、私は信念を曲げて従うしかないだろう。ただ、そのことを残念に思う気持ちは抱き続け、自身の信念に照らして悩み続けなけなければならない。それが自身の信念に対する責任の果たし方でもある。そもそも本人たちの選択に見えるが、実は社会的圧力に屈した結果かもしれない。亡霊に取り憑かれているのは社会の側であることが多い。そんな疑念を社会に投げかけ、命に関わる意識、行動そして制度の在り方を問い続けることも私の責任である。(592字)

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