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リスクを分かち合う

 新型コロナウイルス感染症が社会・世界に拡大していく…その中で私たちが受け止めるべきは、ゼロリスクは「はかない夢」であって現実ではないということです。それは、リスクに絶望して、なすがままに任せることではありません。しっかりとリスクを向き合い、リスクに対する個人と社会の「耐性」を身につけることが大切なのです。ただ、「耐性」には大きな個人差(大きい/小さい、強い/弱いetc.)があります。そこで、多様な個人と個人がつながり、リスクを分かち合う社会的な努力こそが未来への「希望」を生み出すとボクは考えています。
 2018年、慶應義塾大学法学部の論文試験で、そんな今日の事態を見透かしたかのような出題がありました。設問は以下のとおりです。

次の文章は、現代社会のリスクに我々がどのように対処すべきかを記したものである。著者の議論を400字程度でまとめた上で、それに対するあなたの考えを、具体例にふれつつ論じなさい。

 「次の文章」は諸般の事情から掲載できませんが、ボクの解答例の要約部分を以下に掲載しました。

 現代社会のリスクにどのように対処するべきか。著者が強調するのが、皆で「分かち合い」をすることだ。その留意点を著者は三点に分けてあげる。第一に了解というコミュニケーションの重要性だ。これを確かなものとするためには参加者を同調圧力から解放し、「排除」ではなく「包摂」することが大切になる。また、第二に専門知への不信や不安への対処である。これは、ローカルナレッジや生活知を援用・活用して、自分たちで技術を制御することを意味する。そして、第三にあげるのがより「深い層」での信頼の確保だ。「深い層」とは民主制や了解を重視した対話である。これにより、「信頼」と「不信」を先鋭的に対立させず、信頼と不信を相互に強化しあう関係を築くことができる。「包摂」的な対話であれば、専門知に偏らず生活知を引き出し得る。それにより「危害の貧困化」が緩和され、「分かち合い」が可能になるというのが著者の論旨である。

 冒頭に記したように、リスクの「分かち合い」が課題文・筆者の主旨です。リスクをコロナに置き換えると、今日の事態に重なる点が多くありますよね。もちろん、コロナを予想したわけではなく、東日本大震災、福島第一原発事故、その他の自然災害が続く中での出題です。また、経済、生活、環境など、さまざまな面でシェアが重視されてきたことも背景の一つです。

 さらに、ちょいと難しいですが、リスクとシェアとをつなげる視点は、慶應義塾大学の建学の精神「独立自尊」にもつながります。2017年に文学部で「分け与える」が、2020年に経済学部で「分かち合い」が論文試験で出題されたのは単なる偶然とは思えません。では、「独立自尊」とは何か?、これが「分かち合い」とどうつながるか?…それは、駿台の青本『慶應義塾大学/法学部』でふれているので、そちらをお読みください。

 最後はCMみたいになっちゃいましたが…(笑)
 リスクとシェアとをつなげ、「分かち合い」を広げていくことが、私たちが描く「希望」ではないか?というのがボクの仮説/メッセージです。そして、この方向へ社会が進んで行くには、もう一つ大切なキーワードがあります。それが「信頼」です。
 あっ、企業秘密(来年の出題予想)をバラしてしまった。まいっか(^^;

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