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#エッセイ|妊活で命を救われた私。あのとき転職を選んでいたら

” 妊活か、転職か ”

1年前の私がずっと悩んでいたこの2択。

結論、私は妊活を選んだ。

この選択が、私の命を救うことになった。


妊活を始めて数か月。

もともと月のリズムが一定で、根拠はないが、
自分はすぐに妊娠できると思っていた。

しかし、何回か予定日を過ぎることがあった。
私にとっては珍しいことで、
何となく怖い感じがした。

けれど今は妊活中。
もしかしたら良い兆候なのかもと思い、
浮かれ気分で検査薬を試す。

しかし、結果は陰性
何度やってもいつも同じ結果だった。

真っ白な検査薬を見る度に、
気持ちは少しずつえぐられた。


その後も予定日が遅れることは続いた。

たまたま私がこれまで無縁だっただけで、
生理不順なんてよくあること。

ちょうどその頃、仕事が忙しく、
精神的に疲れていたこともあった。

” きっとメンタルにきてて、遅れてるだけだ ”

そう思いながら、
年齢を考えると不安がない訳じゃない。

" もしかしてどこか悪いのかな "


原因はきっと仕事のストレスだ。
これを確信に変えるために、婦人科に行った。

その日、とうに予定日は過ぎていたが、
診察の結果、医師から「まだ来そうにない」と言われた。

念のため血液検査をと言われ、
採血をして、数日後に結果を聞きにくるように言われた。

その日は原因が分からず、
モヤモヤしたまま帰路についた。


驚いたのは、その翌日だ。

なんと生理が来たのだ。

まだ来そうにないと医師に言われた翌日にだ。

" これは絶対におかしい "

不安が一気に押し寄せた。
自分の身体に何か異変が起きている。

すぐに血液検査の結果を取りに行き、
前回とは別の大きな婦人科の病院に行った。


検査結果を見た医師から、思わぬ提案があった。

" 頭のMRIを撮った方がいい "

訳が分からなかった。
婦人科に来ているのに、何で頭?

" あくまで可能性のひとつだが、頭に腫瘍があるかもしれない "

その言葉にぞっとした。
「頭に腫瘍」という言葉のインパクトは大きかった。

すぐにMRIの予約を取った。


MRIの、あの大きな筒の中、轟音の中、
「頭に腫瘍」なんて、そんなことあるはずない。
そう思いながら検査を受けた。

しかし、残念ながら本当に腫瘍はあった。

また頭が真っ白になった。

" なんで? "
" いつからあった? "
" わたし死ぬの? "

頭に腫瘍があるという現実が受け止められず、
全く実感もないまま、医師から説明を受ける。

婦人科の医師からの説明はこうだった。
・頭の中にある「下垂体」という部分に腫瘍がある
・「下垂体」はホルモン分泌に関係している
・それが生理不順の原因だと思われる

そして今後の治療については、婦人科ではなく、
脳神経外科での診察が必要とのことだった。


それからは病院探しと検査の日々だった。

長くなるので割愛するが、
最終的な診断が下るまでに2つの病院に通い、
5回ほど診察・検査のため通院した。

そうしてやっと診断された病名がこれだ。

「成長ホルモン産生下垂体腺腫」

最初の生理不順から4か月後、やっと原因が分かった。

この病気は下垂体に腫瘍ができることで、
成長ホルモンが過剰に分泌されるというもの。

それだけであればよかったのだが、
この病気が怖いのは2つ。

①失明の可能性
大きくなった腫瘍により視神経が圧迫され、
徐々に視野が欠けていき、
放置すると最終的には失明してしまう。

②他の病気になりやすい・進行を早めてしまう
高血圧や糖尿病になりやすく、
またガンの進行を早めてしまうらしい。

そして怖いのが、②の影響のためか、
放置すれば寿命が10年ほど短くなるらしい。

その他にも月経不順や頭痛などが引き起こされる。
現に月経不順は起きていたし、
頭痛については、自分は頭痛持ちだと思う程に昔から起きていた。

またこの病気で有名なのは、
手や足が大きくなること。
そして鼻やあごといった顔のパーツも
大きくなってしまうことだ。

顔に関しては、
徐々に変わるため気付いていないのか、
親譲りで元々鼻はしっかりしていたのもあって、あまり自覚はなかった。

しかし手に関しては覚えがあり、
半年前からむくみがひどく、
結婚指輪も入らなくなっていた。
足も少しだけきつくなった靴があった。

今になって思い返せば、
数年前から、身体の色んなところから、
病気のサインは出ていたのだ。

とはいえ、いずれも「言われてみれば」で思い出す程度。

今回の生理不順だって、
妊活をしていなければ、特段気にも留めなかっただろう。

実際、この病気は気付きにくいらしい。
視野が欠けるなど、腫瘍がかなり大きくなって
初めて気付くケースが多いようだ。


病気の診断が下るとともに、
今後の治療の話が始まった。

この病気の治療としては、
やはり手術になるそうだ。

「頭の手術」

そう聞いて、平常心でいられる人は少ないのではないか。

それからの私は頭痛がどんどん酷くなり、
仕事も度々休んでしまった。

市販薬を飲んでも頭痛は治まらず、
これが頭の中にある腫瘍によるものだと思うと、
より一層恐怖が増した。

病気によるストレスが原因だった気もするが、
それが原因だとしても、頭痛は治まらない。

家事も何も手に付かず、横になってはみるものの、
病気のことを考えてしまい、気が滅入る。
毎日が地獄だった。


そしてこの頃の私は、検索魔になっていた。

病気に関する情報。
そしてこの病気になった人のツイートやnote、
ブログを探してばかりいた。

今後、自分の身に起きることについて、
分からない状態が何よりもストレスだった。

とはいえ検索したところで、
手術のリスクや術後の苦しさといった情報が並び、
それらは決して穏やかなものではなかった。

調べれば調べるほど辛くなり、
一時はあえて距離を置いたこともあった。

しかし「分からない」ことの方が
より恐怖をかきたてる

目にしていて楽しいものではないが、
知っていることが増えてくると、
徐々に現実を受け止められるようになってきた。

特にこの頃、安心材料になったのは、
同じ病気になった人の情報だった。

その人達がどんな気持ちで手術に臨み、
術後どうやって過ごしたのか、
退院後どんな生活を送っているのか。

手術や術後は大変で、
人によっては後遺症が残っている人もいた。

けれど私が見た限り、
みんなちゃんと生きている。

そのことが何よりも私を勇気づけた。

一度自分の「死」を意識すると、
「生」に対する尊さは増す。

「生きられるだけで十分だ」
そう思える自分がいた。

この病気によって「幸せ」のハードルは下がった。
これが良いのか悪いのかは分からない。

ただ、不思議なことかもしれないが、
病気になる前よりも「幸福感」は確実に強くなっていた。


数週間後、無事に手術を終えた。

術後はやはり辛かった。
「聞いていたあの話はこれか」と思いながら過ごした。

当時の様子はまた書き残したいと思うが、
病室という特別な空間で過ごした日々の中で、
得たものはとても大きかった。

あれだけ怖かった手術も、
今となってはありがたいと思える。

手術できるということは、
これまでに術式を考えた人がいて、
それを何人もの患者さんと医師が行い、
それを研究した学生がいて、
今回無事に私がその手術を受けられたのだ。

病気になったことは決して良かったとは思えないが、
私がこの病気になったのが、
術式・治療方法が確立されたこの時代でよかった
と、心の底から思う。


” 妊活か、転職か ”

1年前の自分は悩みに悩み、
最終的に妊活を選んだ。

正直、やはり転職しておけばよかったと思うことはあった。

しかし病気が見つかってから、
妊活を選んだから、病気に気づけた。
早く病気に気づけたから、寿命を縮めずにに済んだ。

そう思うようになった。


転職して妊活を休んでいたら、
生理不順なんて気に留めていなかっただろうし、

もし病気が分かったとしても、
転職してすぐの立場では、
気持ち的に長期休みは取りづらかっただろう。

運命論的なことはあまり得意ではないのだが、
今回のことではさすがに運命を感じてしまった。

妊活・転職の分かれ道は、
間違いなく私の人生の岐路だった。

そこで妊活を選んだ私は、
長生きできるチャンスをもらった。

" これだけの経験をしたんだ。
 自分の人生、やりたいことをやらなくちゃ。"

手術を終え、無事退院したいま、
私は自分の人生と改めて向き合っている。

" これからの人生、どんな楽しいことをしようか。"

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