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「ソウルメイト・ドラゴン~篤あっつつ~」第五話 星が私を導く

星が私を導く

この日から幾島の厳しい修行が始まった。
薩摩の田舎でのびのび育った私に、京都の公家のしきたりや御台所修行は納得できない事ばかりだった。
「どうして、ここでこうするの?そこに何か意味があるのか?」
「篤姫様、意味があろうとなかろうと、そうするようになっております。
そういう昔からの習わしでございます」
食ってかかった私を、幾島はぴしゃりとはねのけた。

納得できぬ!私は両手を握り締め、幾島をにらみつける。
私は自分の心で感じ、正しいかどうか自分で決めたい。そう伝えると幾島は平然と言い放った。
「ですが、慣習というものは、ちゃんと意味があって出来上がったものでございます。
不必要な意味のないものでしたら、とうに消えております。
一見意味がないように見え、意味があることもこの世にはございます」

一見意味がないように見え、意味があることもこの世にある。
この言葉は、私の胸に響いた。言われてみれば、確かにそうかもしれない。
武家のしきたりも意味がないように見え、意味があるものもたくさんある。
それらには知らず知らずのうちに従ってきた。
だのにどうして、この公家のしきたりに素直に従えないのだろう?
そう考えた時、ハッ、と気づいた。
「わかったぞ!幾島!!」
「なんでございましょう」
「幾島は、薩摩を捨てよ、と言った。
確かに江戸や京から見たら、薩摩は田舎だ。
しかも、私はもともと島津の分家の娘だ。
これから城に入り、どれだけさげすまれても仕方ない。
人は出自を変えることなどできない。
だが私はそんな自分に誇りを持っている。
言葉も思いも身なりも行儀も、捨てても構わぬ。
が、薩摩に生まれ育った自分、というプライドは捨てられぬ。
幕府の中や大奥で、私を家定様の御台所にふさわしくない田舎娘、という噂があるのも聞いておる。
それでも私はご縁があり、運命に選ばれた。ここに運ばれてきた自分に誇りを持っている。
その誇りは捨てられぬ」

幾島がハッ、と胸を衝かれたような顔をした。
「なぁ、幾島。私は自分で、この運命という龍に乗ることを決めて薩摩からやってきた。
私を見下し、笑うものもいるだろう。
だが、私は自分という誇りは捨てぬ。
考えてみよ。
薩摩の田舎で島津の分家に生まれた私が、お義父上の養女になり家定様に嫁ぐなど、どれだけシンデレラ・ストーリーか。それだけ私は強運ぞ。
その強運を持った私の誇りを捨てて、どうする?
それこそ本寿院様や滝山様、そして家定様の側室のお志賀の方には渡り合えぬ。
だから私は薩摩の今泉で生まれ育った自分の誇りは捨てぬ。
ある意味、私が薩摩から持ってきたのはこの「強運」だけなのだから」

幾島は、両手を畳に添え頭を下げた。

「篤姫様、確かにそうでございました。
篤姫様の一番の強みは、その「強運」でございます。
幾島、心ちがいをしておりました。
どうぞ、お許し下さい。
その「強運」は、何があっても手放さないで下さいませ。
「強運」をお持ちになっているご自身を、誇りに思う心はしっかりとそのままお掴み下さい」

「うむ」

自分の気持ちがすっきり整理された心地良さを感じた。そして自分の胸を軽く抑えた。
ここに光輝く星がある。
真っ暗な夜空に煌々と輝く一つの星。
それは、私の道しるべ。
それは、私自身への誇り。
他の誰に示すのでもない、自分へのプライド。
その星が私に言う。
堂々と自分に胸を張れ、誇れよ、と。星が私を導く。

納得できなかったのは、私の出自をみっともないと隠そうとしていた周りとそれに同調しようとしていた自分自身にだった。
私が私であることは、生まれ育った出自を含め、すべて私の「誇り」だ。
そこにもれなく「強運」がついていた。

スッキリした自分に満足していたら、幾島が顔を上げた。

「でしたら篤姫様、先ほどの所作をもう一度、繰り返し十回ほどおやり下さい」
「あ、ああ・・・・・・」
「はい!頭は45度に下げる!腰はもう少し引く!!」

幾島のスパルタ教育は、毎日夜遅くまで続いた。
私は時に反抗し、叫び、泣きわめきながらも、よく食いついていったと思う。
幾島は相変わらずストイックだが、あの話以来ほんの少しだけど心が通じ合った気がした。
自分が教えたことを私が習得すると、褒める代わりにあるかなきかの微笑みをそっと浮かべるようになった。
京での暮らしで長らく封印していた彼女もきっと、薩摩で生まれ育った誇りがあるはずだ。
それを彼女自身が思い出してくれたらうれしい。

幾島は私の教育係を務めながらも、外に出かけ情報取集も怠らなかった。
なぜなら私達は思いのほか、この江戸屋敷に留まることが長くなったからだ。
お義父上の考えでは、しばらくここで花嫁修業をしたらすぐに徳川に輿入れの予定だった。
しかし、私と家定様の結婚は進まなかった。私達は三年近くここで足止めされた。

みながじりじりと焦り、薩摩藩邸の空気もギスギスし始めた。

おかしい、私の強運はどうした?!楽天的な私でさえ、自分の強運を疑い始めた。

そんな中、ある人物が私の目の前に現れた。


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