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リーディング小説「美しい子宮~寧々ね~」第十三話 女王への道の始まり

女王への道の始まり

十二月、秀吉は柴田様が雪深い福井の北ノ庄城で動けないことをチャンスと見て、攻撃を開始しました。
秀吉にとって柴田様は目の上のたんこぶでした。
天下統一に向け、取っておかねばならない重石だったのです。
彼にしたら柴田様を討つことは、柴田様の奥方になっているお市様を手に入れる事でもありました。
わたしはその見え見えの下心には、ちょっとムッ!と来ました。けれどニンジンを鼻先にぶら下げたら走る馬のように、秀吉のやる気を燃えさせるなら、致し方ないと思うことにしました。

自分のご機嫌を取れるのは、自分しかいません。
わたしがわたしを心地よくするしかありません。
秀吉はわたしが元気になり、龍子殿のところに行く以外は、わたしのそばで毎晩手を握り一緒に眠るようになりました。
彼に対して肉欲はなくなりましたが、時々身体がカァッーと熱くてモヤモヤします。そんな眠れない夜は、自分で自分を慰めます。
わたしの横では秀吉が、健やかにいびきをかいて寝ております。
こっそりひっそりと、一人で燃え上がります。
そしてスッキリし、わたしも健やかな眠りにつくのでした。

女性に自慰は、ダメですか?
男性なら、よろしいのでしょうか?
男も女も関係ないでしょう。
誰にも迷惑など、かけていません。
わたしがわたしを満たす
ただ、それだけです。


秀吉は柴田様の養子のいる長浜城をあっさり攻略し、年が明けた天正十一年から本格的に柴田様と戦いを始めました。
実は柴田様の陣営に、まつさんの夫の前田利家様が加勢していました。
利家様はもともと柴田様の与力であったことから、清州会議の時も仕方なく柴田様についたのでした。
けれど、利家様は秀吉の親友。
わたしもまつさんも、敵味方になりたくありません。
豪の生母でもありますし、豪も心配していました。

わたしは利家様に手紙を書きました。秀吉は利家様が今諸事情あり柴田様のところにいる事を理解し、いつでも利家様を受け入れる気持ちがあること。
そう記すことで、利家様がいつでも秀吉のところに戻りやすくなる道筋をつけました。そして併せてまつさんにもお手紙を出しました。

利家様は男気の強いお方。
まつさんのサポートも必要だと思ったのです。
まつさんには、わたしの素直な気持ちを綴りました。
わたしは手紙を書きながら、きっと利家様とまつさんは、わたし達のところに戻ってくる、と祈りました。
お互い貧乏長屋から過酷な戦いを経て、出世したのです。
柴田様と秀吉、どちらに勝算があるか賢い利家様とまつさんならわかるでしょう。

二月に賤ケ岳の戦いが始まり、秀吉と柴田様と激しく争いました。わたしの予想通り、利家様は柴田様を見切って秀吉のもとにやってきました。
秀吉は大喜びでした。
わたしも小躍りするほどうれしくて、豪を連れすぐにまつさんに会いに行きました。

四月利家様と力を合わせた秀吉の軍は、柴田様を居城の北ノ庄城に追い詰め、籠城させました。
四方八方兵で固めた秀吉の軍は、お市様が姫様達と城を出てくるのを待っていました。
ところが予想に反し、城から出てきたのは三人の姫様達だけでした。
お市様は柴田様とお城で自害されたのでした。
それを知った秀吉は、悔しさと悲しみのあまり髪の毛をかきむしって泣いたそうです。わたしは溜飲が下がる思いでしたけどね。

お市様の自害は、お市様の本心だったのでしょうか?
わたしは時々、女の一生とは何なのか考えます。
戦国一の美女と誉れ高く、幸せな結婚生活を送っていたお市様。
兄の信長様の命によって、秀吉がお市様の夫の浅井長政様を攻め殺しました。
信長様亡き後、筆頭家臣で二十五歳も年上の柴田様に嫁ぎ、一年もしない内にまた秀吉に攻められ柴田様と自害。
けれどどの運命もお市様は自ら選び、生き切ったと思います。
お市様は生き延び秀吉の側室になるより、極楽浄土で長政様と過ごすことを選んだのでしょう。
あの方の笑顔は本当に花が開いたように、華やかで美しい笑顔でした。
きっと今は極楽浄土で、愛する長政様と共に過ごされているでしょう。
失礼ながら、柴田様を愛しておられた気はいたしませんので。

秀吉は、お市様の残した三人の姫様達を連れて戻ってきました。
長女の茶々様を見た時、わたしはハッ、と驚きました。
以前見た時はまだ幼い面影がありましたが十四歳の今、お市様の面影を映した美しい女性になっていました。
その時、わたしは天啓のようにわかったのです。

「ああ、茶々様は秀吉の子を産む。たとえ、どんな形であろうとも彼の子を産む」

茶々様を始め、初様、江様は秀吉の養女という形でわたし達が保護することになりました。
わたしと秀吉、そして茶々様の運命はここで交差し、強く結ばれることになったのです。

賤ケ岳の戦いで勝利した秀吉は、信長様が築いた天下人への道を引き継ぐことを世に認めさせました。
ここから秀吉の天下への道が、大きく開きました。

後年、わたしが保護したイエズス会の宣教師ルイス・フロイスは、わたしのことを「王妃」あるいは「女王」と称しました。

わたしの女王への道の始まりは、ここからでした。


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