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「シャイニング・ワイルドフラワー~千だって~」第二十二話 この世に生まれ、生かされている意味は何?

この世に生まれ、生かされている意味は何?

江戸に来て二年後、娘勝姫の結婚が決まった。
十一歳の勝姫はパパの養女という形を取り、池田光政様に嫁いだ。
片親だけど娘をちゃんとお嫁入りさせ、さみしさもあったけれど母親としての責務も果たし、肩の荷を下ろした安心感もあった。
勝姫の嫁入り先はなかなか難しかった。片親と言っても、あの子は二代目将軍の孫で現将軍の姪でもあるから、下手な所には嫁入りさせられない。
そういう面で嫁ぎ先を選ぶのは、なかなかむつかしかったわ。

勝姫の夫の池田光政様の母上は、パパの養女という形で池田家に嫁いだ鶴姫様だった。。
勝姫と同じように七歳で父を亡くし、家督を継いでいた。
私と忠刻ダーリンのような恋愛結婚ではなかったけど、勝姫は十一歳で初婚だから仕方ないことね。
もし恋がしたければ、私のように夫と死に別れてからすればいい。
結婚はしてみなければ、わからない。
うまく添っていけたら末永く仲良くすればいいし、相性が悪ければ戻ってきたらいいの。
自分を押し殺してまで、夫や家に尽くすことはない。
私はそう言って勝姫を送り出した。

とはいえまだ十一歳の勝姫は、泣きそうな顔で江戸城から嫁入りした。私も七歳で嫁ぎママの元を離れ、さみしい時も多かったので彼女が心配で、たびたび手紙でやり取りをした。
私が彼女の夫の光正殿にお会いしたのは結婚して五年後だった。
光正殿に会えたのも弟の家光が、私に配慮してくれたからなの。
少し頑固そうだけど誠実な光正殿にお会いでき、本当にうれしかった。
話しを交わしながら幼少から苦労している彼なら、きっと勝姫のことも大切にしてくれているはず、と確信し、安心した。

その間、パパがこの世を去った。
ママの死に目にはあえなかったけど、パパの時は手を握り最後のお別れをした。私は痩せて骨と皮だけになったパパの体を撫でて泣いた。
パパのお葬式で手を合わせ、私と娘に最後まで愛を与えてくれたパパに感謝を送った。
私を愛してくれた人が、またあの世に旅立ってしまった。
お葬式を終えた私は、自分がこの世に生まれ何を残せか、パパの手を握った自分の手をしみじみ見つめながら考えた。私の手はまだシミもシワもなく若い。この若さを恋だけに費やしていいのかしら?もったいなくない?そんな思いがチラリと胸をよぎった。でもそのまま忘れてしまった。

そしていくつも恋を楽しんでいた三十七歳の時、聞いた知らせが私の運命を変えた。
それは秀くんの娘で、私の養女として東慶寺に送った奈阿ちゃんが、東慶寺の住職となったという知らせだった。
私は急ぎ、東慶寺に行った。
奈阿ちゃんは二十五歳で、天秀尼という名になっていた。
私達は手を取り合った。お互い胸がいっぱいで何も話せなかった。十八年ぶりの再会だった。
奈阿ちゃんこと、天秀尼は仏のように穏やかな顔で言った。

「天樹院様、私がこうして今ここにいるのは、天樹院様に言われた言葉があったからこそです。それでこうやって生きてここにおります」

「私が言った言葉?」

「そうです。天樹院様は私を東慶寺に送り出す時に、こう言ってくれました。『生きているだけで、もうけもの』
この言葉が、私を支えてくれました。
つらい修行もこの言葉を口にすることで乗り越えていけました。本当にありがとうございます」

奈阿ちゃんは頭を下げた、それを聞いて、胸がいっぱいになったの。
あの言葉は、伝えた私自身の支えにもなっていた。
こうやって奈阿ちゃんが、天秀尼になれたのもあの言葉があったことを知り、心からよかった、と思えた。秀くんもきっと喜んでくれているはず。天秀尼は続けて言った。

「私はこれからこの東慶寺を縁切寺として、自ら離縁を言いだせない女達のために役立てたいと願っています。この寺を女達の救済の場にしとうございます。できましたら、天樹院様にもお力添えをいただければ、嬉しく思います」

天秀尼は頭を下げた。
「もちろんです。できる限りのことをさせていただきます。
何でもおっしゃって下さいね」

私は彼女の手をもう一度強く握った。彼女もその手を握り返した。私達の心は通じ合っていた。

天秀尼と会ったことで、私は今の自分の生活に疑問を持った。この頃、勝姫は第一子となる綱政を産んだ。私は三十八歳でおばあちゃんになった。
その知らせを聞いた時もうれしかったけど、もうじき四十歳を迎える自分に焦りを感じた。
人生の後半生、自分のやりたいことは何なのか、まだはっきりわからない。
恋はたくさんしたかったから、やってみた。だけどこのままずっと続けようとは思えない。

もう愛情にも色欲にも、縛られたくない。そこから自由になりたい。
ふつうの女性はそう思って出家して世俗を発つのだけれど、私はそうではなかった。
だけど、もう十分楽しんだから形だけの出家から、マインドも出家させていい頃合いかもしれない、と思った。

夜眠れないまま暗闇に目を凝らした。私がこの世に生まれ、生かされている意味は何?この世に生まれ、何を残せるのかしら?考えても答えが出ないまま、眠りに引き寄せられた。


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愛し愛され輝いて生きるガイドブック

あなたがこの世に生まれ、生かされている意味は何だと思いますか?

すぐには見つからないかもしれません。

けれど、きっとその答えはあります。

あなたは持っています。

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知りたくないだけかもしれませんね。

あなたの生まれてきた意味・・・

なにでしょうね?


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