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「シャイニング・ワイルドフラワー~千だって~」第二十六話 すべては光と影の表裏一体

すべては光と影の表裏一体


その後、私は東慶寺をよりよい寺にしたいと考えた。そこで目をつけたのが東慶寺の伽藍だった。東慶寺の伽藍は古びて、腐りかけていたの。伽藍とは、皆が集まり仏の道を説きながら修行する場所。
言わば、東慶寺の「顔」となるメインスペース。
そこが汚く古びていたら、東慶寺のイメージが悪い。
だからこそ加藤明成にも見下され、攻め入る隙を与えてしまったのね。私はこの伽藍を女性の救済の役に立つよう再建することにした。

そのためには多額のお金がかかる。そこで再建費用の一部は自分の私財を投じると同時に、クラウドファンディングをすることにした。

このクラウドファンディングの案。

実は思いついたのは私ではないの。他ならぬ、彼女よ彼女!そう、刑部卿局。彼女は東慶寺を盛り上げるための案を考えていた私に、こう言った。

「姫様、東慶寺の伽藍の再建は姫様のお力を持ってすれば簡単にできましょう。姫様の私財を費やし、家光様にお願いしたらすぐに協力も下さるでしょう。けれどそれでは、東慶寺は姫様がスポンサーになっているから、何かあれば姫様に頼ればいい、と世間は思ってしまいます。
姫様が御存命なら、それでもいいでしょう。
が、東慶寺は先の世の女性達にも必要な場所です。なくてはならない場所です。姫様が亡くなった後も、ずっと続いてもらわねばなりませぬ。
ですから、他の女性達の力も借りれば良いのです。
他の女性達と協力し、女性の駆け込み寺としての東慶寺の伽藍を再建しましょう。そして女性のための寺としてアピールするのです。
その方がきっと後々、お役に立ちます」

「それだわ!」

刑部卿局の案を聞いた時に、私は膝を打った。
自分一人でできることは、限りがある。
けれどたくさんの女性を巻き込むことで、東慶寺の存在もスポットが当たる。それが女性のための女性の救済場の意味を成せる。

だけど私は気になることがあった。

「さすがだわ、刑部卿局。だけど、みな協力してくれるかしら?」

彼女はにやり、と笑って言った。

「姫様、姫様は誰も持っていない羨ましがられるバックボーンがあります。
徳川の姫、という大看板です。
東照大権現様のお孫様、二代目将軍の長女、現三代目将軍の姉。
この看板を使えばいいのです」

私の目からウロコがはらり、と落ちた。
これまでその肩書や看板は、自分にとって不利なことばかり、と思っていた。このおかげで恋を仕掛けてくるメンズもなかなかいなかったし、気軽にお茶やランチする友人もなかなかできなかった。
だけどそれは自分で自分を勝手に縛っていただけだった。
すべては光と影の表裏一体。考え次第で光にも影にも、プラスにもマイナスにもできる。すべては心の思い一つ。私は早速、光の方に向かい突き進んだ。

 そしてスタートしたクラウドファンディング。

女性のための寺、という事で、男性ではなく女性達に対し呼びかけた。
「女性の救済のための東慶寺伽藍の再建に協力いただければ、あなたを始め、あなたの家系の女性達にも後々ずっと幸せな道が用意されています」
女性のために女性に協力を仰いだの。

この時代は今よりもっと男性優位の社会だったけれど、富裕層の女性達は莫大な資金を持っていた。その彼女達をターゲットにした。

スタートしたクラウドファンディングに多大な協力をしてくれたのが、家光の乳母の春日局だった。実は私のママと春日局の因縁は深かったけど、私は彼女と仲良くしていた。

春日局の父は、ママの伯父である織田信長公を討った明智光秀の重臣だった。ママにしたら自分の母親の織田家を滅ぼした敵方の娘が、自分の長男の乳母になる事に強く反発した。
けれどおじいちゃまの命令で彼女が家光の乳母に決まった。
ママは赤ちゃんの家光を彼女に取られたような気がして、彼女と晩年まで仲があまりよろしくなかった。
だけど家光は、彼女がいたから三代将軍になれたの。
ママとパパは家光の弟の忠長を可愛がり、忠長を三代目に推していた。
それを阻止し、おじいちゃまに申し上げ家光を正式な跡継ぎに決めさせたのは、春日局の功績よ。
だから彼女は幕府でも大奥でも絶大な権力を持っていた。

その彼女が「東慶寺の伽藍の再建」というクラウドファンディングに協力してくれたのだから、他の大名の妻達もこぞってお金を出してくれた。
あっ、と言う間に予定金額は超え、無事に東慶寺の伽藍は再建できた。

刑部卿局が言った通りになった。するすると成功したことで、私は望みを叶える為、自分が持つ最上のものを使うことを知った。いわゆるブランディングだ。それを今回の件で学んだ。

東慶寺の伽藍は新しく美しく出来上がった。
私は奈阿ちゃんこと天秀尼から新しい伽藍の完成を聞き、すぐに東慶寺に向かった。天秀尼が、にこやかに迎えてくれた。

彼女に案内され、陽ざしを浴び艶々と輝く伽藍を見てほぅ、とため息をついた。それは惚れ惚れとする美しさだった。女性による女性の救済のための証。ここに女性達の強い思いが込められている、私と天秀尼は身の引き締まる思いで、しばらく伽藍を見つめた。そして彼女の方を向いて話しかけた。

「とても居心地のよい場所になりましたね」

「天樹院様を始め、皆々様のおかげでございます。」

彼女が頭を下げた。

「女性が女性を救済する場。ここには女性達の思いがこもっているわ。これで東慶寺は、私が亡くなっても末永く続いて行くわ」

「天樹院様、何ということを!まだまだ天樹院様はお若こうございます。
私はこれからずっと天樹院様と一緒に困った女性達を助け、幸せになるための導きをしていきたいです」

泣きそうな顔になった天秀尼に、私は首を振って伝えた。

「ありがとう。だけどね、私もいつどうなるかわからないわ。
ほら、ここにはあなたの父で私の最初の夫だった豊臣秀頼公の菩提も弔われているわ。
みな、若くして極楽浄土に旅立ってしまった。二番目の夫も。
私一人がまだこうやって、生き永らえてるのですよ。
あなたがいてくれたら、東慶寺も女性達も安心です」

 そう言って笑った時、天秀尼が私の手を握った。

「お母様、そのような悲しいことを言わないでください。
私には、もうお母様しかおりません。
どうか、ずっとずっと私のお母様でいて下さい」

 そう言った天秀尼の瞳は濡れていた。

 「奈阿ちゃん・・・・・・」

 思わず昔の名前で彼女を呼び、抱きしめた。

そんな私達を少し離れた場所で、白い髪になった刑部卿局が静かに見つめていた。

これも何かの予兆だったのかもしれない。

二年後、奈阿ちゃんは三十七歳でこの世を旅立ってしまった。
その知らせを聞いて、私は呆然とした。
まだあんなに元気で若かったのに。
やりたいこともたくさんあったでしょうに。

私は畳を拳で打ち続けながら、号泣した。
ずっと一緒に女性を助け、幸せになるための導きをしよう、て言ったじゃない!ずっとずっと私のお母様でいて下さい、て言ったじゃないの!!
そう叫びながら、悔しくて悲しくてさみしくてつらくて泣いた。

私はまた一人残された。


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