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「さくら」のはなし

誕生日に、本をもらうということはなんだかとても特別な幸福のように思えた。その人の好きを教えてもらうことは、希望の光の粒が自分の人生に惜しみなくさらさらと降り注いでくれるような、温かさがある。今日はそういう宝物の一冊の、大切な本の話。

調子が悪かったり眠れない夜に、本を読むことがある。その日はちょうどすこぶる身体がよくなくて気持ちも落ちていて、読みかけの大切な本をすがるように手にとってぼんやりと触れてみた。

長編小説を一気に読んだのは、結構久しぶりな気がする。文庫のわりには意外と厚いなて印象を帯びて、でもやわらかいひらがなで書かれた「さくら」になんだかにっこりしてしまうような、そっと触れたくなる温かみのある本。じっくりと時間をかけて読もうと思っていたのだけど、でもなんだろう、あっという間だった、気づいたら最後の章を読み終えていた。終わりはやっぱり、寂しくなってしまう。時間にしてしまえば一瞬の、でもみつめたたくさんの景色が、長い旅路の愛しさが、ぱっと開けて最後のページになる。
こうして感想を、自分の感情を確かめるように書こうとしながら、涙が次第に乾いていくのと同時に、ああこの本を読み終えたんだなあと、ゆっくりと現実での呼吸が戻っていくような不思議な心地がした。たぶんこの本が素敵だったよ、て語り出したら私は何時間でも誰かとしゃべっていたくなるけど、同時に言葉はつかえてうまくでてこないかもしれないだろうから、代わりにnoteにこうやって書き留めておくことにした。

主人公の幼い頃の思い出はゆるやかに流れて、私のことも照らしてくれるような、どこか寂しいようないたいような、感情の渦が穏やかに胸を駆け抜けていった。くすぐったくなるような物語の記憶たちは、全部春の日差しみたいに眩しくて愛しく、繰り返し、大切なものを反芻するように読むと涙が滲みそうになる。全部にずっと触れていたいけど、いつまでもここにはいられないとどこかでわかっているような、ああでももう一度辿りたいな、読み返したいと思うほどに、私は「さくら」に出会って幸せで、愛しているんだなぁて噛み締めている。この本が好きだ、てそれだけで人生の救いや希望はあるなんて言ったらおおげさに響くかもしれないけど、私はこれをずっと抱きしめていこうと思う。
最後はもう感情がごちゃまぜになって言葉にならないままに、たくさん泣きながら読んで、あとがきを読んでまた泣いてしまい、そんな本初めてだったからびっくりした。やさしい風が私のいたみもかなしさもまるごと一緒に笑って連れていってくれたような、気がした。

今この「さくら」に出会えたことが、私はただただ嬉しかったし、衝撃的でもあった。私の世界を、物語がまたひっくり返してくれたのだと思う。読んだ後目を閉じて、息を吸い込んだら、ひなたの、土の匂いがするような作品。体調を崩してベッドの上にごろんと転がっていた、もうここは極寒の地だとばかりに蹲っていた私を、さくらは笑みがこぼれてしまうほどにあっけなく春に連れてきてくれた。こんなにやわらかくて、きゅっと心を掴むんだって、主人公と一緒に泣けてしまって、泣いたら、笑えた。それはつよがりでもなく、嘘でもなく、私の心を揺らしてくれた。

ちなみに、この本にでてくるサクラというのは犬の名前なんだけど、自分と同じ名が、主人公の語る思い出と共にでてくるたびに、なんだかくすぐったくなって嬉しくって私もしっぽをふりたくなった(笑)

ここからは、ちょっと私にとってはパーソナルなお話を。
あと、「さくら」のネタバレも含む(好きな箇所の引用)ので、もしこの記事を読んでくださる方がいるなら、そして「さくら」をこれから読もうと思っているならば、この後はどうか読了してから…。
もし、誰かに、私の感情の行き着いた、旅の記録が届いたら、勝手ながら嬉しいです。
この先はさらに赤裸々な日記みたいなもの。


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