思春期の水曜日 其三

 先入観というものは恐ろしい。今回の一件――学級委員同士のカップル誕生――で思い知った。嘘や偽の情報を精査し、真の情報を一手にする力を自負していたが、まだまだ未熟らしい。
 教室に入り、皆が席に着いて担任教諭を待つ間、隣の子と雑談した。この子はあの天下無敵の学級委員と仲が良い。
「ねぇ、どっちが最初に告ったの?というか、何か相談されていた?」
 その子はおっとりした口調でゆっくり話した。
「相談、と言っても、あの子は、決断は一人でするから。登下校で、手を繋ぐのは、大丈夫か、それくらいかなぁ、聞いているのは」
 あたしは更に踏み込んで聞いてみた。本人に尋ねるよりも、素の情報にありつけると思ったのだ。
「じゃあ、どこまで仲が進展しているかは、聞いてないか……」
 あえて一歩引いての聞き取りである。こうすると、向こうから喋ってくれる場合は多い。
 予想通り、向こうから、
「あ、そうそう」
 反応が返ってきた。手応えありだ。
「仲の進み具合について、聞かれたら、とっくに最後まで進んでいる、と答えてほしいと、言われているよ」
 あたしは肩を落とした。これは鉄壁の城塞にも等しい。あの学級委員に面と向かい、キスしたか?A?B?C?などと聞く度胸のある者はいないだろう。そして仲の良い友人がこの調子では、真相は藪の中である。
 あたしは諦観を込めて会話を終えた。
「ありがと、色々聞かせてくれて」
「そう?役に、立ったなら、良かったわ」
 まさか役に立っていないとは言えず、あたしは窓の外を見た。晴れるかと思った天気は、まだまだぐずつきそうであった。

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