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島で・・・

彼に連れられて
遠い海の向こうの
小さな島に渡った
古い民宿が
その日の宿だった
私達の他に
幾つかのグループ
彼は旅の解放感で
気が大きくなったのか
食堂で酒を呑み
隣の人達と
笑い合った
暫くして
みんなで近くの
温泉に行くと言うので
ついて行った
行く道中で
彼は別の女に何か言い
女もそれに言い返した
エキゾチックな印象の
勝気な女
喧嘩なのか
じゃれあいなのか
どちらとも言えない
私にとって
空虚な時間だった
浴場でその女は
私の隣で髪を洗った
長い黒髪と
はち切れそうな腰付き
たわわな乳房
私の心を乱す
女の裸は淫靡で
ゴーギャンの絵の様だった
帰り道
彼とその女は
また何か言い合った
ずっとずっと
何かを言い合い続けた
私は黙って
そんなやり取りを見ていた
空虚な気持ちは
暗黒が支配した
宿に戻ると
いつも通りに
彼は私を抱いた
ひと息ついて
私が眠ったふりをすると
彼は部屋を抜け出し
朝まで戻らなかった
私の頭の中に
あの女の肉体が
何度も浮かび上がっては
消えて行く
彼の抜け殻を見る度
私はひとりで
深い闇の中を
彷徨い
沈んで行った

数日後
島の岩場で
若い男女の
赤い身体が見つかった
私は彼に
終わりを告げた

島を出る時
どこかで
砂の流れて行く
音を聴いた






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