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イキルかシヌか?

とあるバーのカウンター席で、4人の男女が並んで座っていた。
一番端の苦み走ったイイ男がグラスを持ち上げ、
「じゃ、俺から」
と言いつつ、一息にそのウォッカを呑み干した。

残りの3人は興味深げに男の様子を見守った。
男は目を閉じ、くぅ〜っという吐息を漏らし、アルコール度数の高いそれを体内に染み込ませた。

次の瞬間、男はカッと目を見開き、「ぐぅえ〜っ」と断末魔の叫びをあげると口の端から血のような液体を滴らせ、カウンターに突っ伏した。

すわっと周りの者達は驚き、立ち上がりかける。

すると
「なんてね」
と男は満面の笑顔で起き上がる。

「ああ、びっくりした〜」
「もうやだぁ、井伊さんたらぁ」
なんて3人は口々に笑い合い、盛り上がった。



「じゃ、次はあたしね」
二番目のセクシーな女が、自分のグラスを持ち上げる。
女は何の躊躇いもなく、ウォッカを呑み干す。
えへへと何も変わらない笑顔を浮かべるが、次の瞬間。
「うっ」と一声あげると、
喉を掻き毟り、身体を痙攣させ、そのままカウンターに突っ伏してしまう。

ええ!
と、周りの者達が腰を浮かせる。
すると
「なんてね」
と女はニコニコ笑いながら起き上がる。

「なんだよ。またかよー」
「もう、きぃちゃんまでびっくりさせるんだからぁ」
ともう一人の女が甘ったるい声を出す。


そして、その三番目の可愛い顔の女が、
「じゃ、今度はわたし!」
と言ってグラスを手にする。

またも、一気に呑み干したあげく、
「ギャッ」ともなんとも言えないカエルのような声を出して、カウンターに突っ伏す。

流石に、今度はみんな笑ったままで、
「あーはっは、またやってる」
「るぅー、芝居だろ。わかってるよ」
と一番目のイーさん、二番目のキーちゃんも驚かない。
「バレたか」
と三番目の可愛い女ルーが笑顔で起き上がる。



「じゃ、最後にシーさんよ」
と、みんなが俺の方を見る。
「え? ああ、俺の番か……」
俺は目の前に置かれていたグラスに目をやる。
(ナンカ、ヤバイキガスル)
俺のウォッカだけ他の奴より色が濃い様な気がした。
「ほらシーさん、早く早く」
みんなが俺を急き立てる。

 ちょ、ちょっと待てよ。
順番にイーさん、キーちゃん、ルーちゃんと来て、俺がシーさんて、なんだよ〜。
イー、キー、ルー(生きる)と来て、俺がシー(死)なんて、
ナニカ不吉でないかい?

しかし、みんなの囃し立てる声は止まらない。
こうなったら仕方あるまい。
俺は震える手でグラスを手に取った。
グラスの中で毒々しい液体がゆらゆら揺れる。
みんなが固唾を呑んでこちらを注目する。
ええい、俺は目を瞑った。
そして、一息に呑み込む。

はっ、急にものすごいアルコールが体内を駆け回る。
「あぁっ」という声と共に、俺はカウンターに突っ伏した。




辺りが一瞬、しーんとなる。



もういいかな?

いいんでないかい?

それでは、そろそろ

「なぁんてね!」

俺は笑顔で起き上がっ…………、あっ……。

俺は声を失った。

周囲には、誰もいない。



そして、気がつくと俺の目の前のカウンターの上には、
4人分のお会計伝票が……。

シヌ……








おわり



いつもありがとうございます。
先日のこれ
久しぶりに頂きました。
でも、#業界あるある とは言い難い。
お許しを

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