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とある銀行強盗の行く末

 銀行の店内、カウンター前で突然男が機関銃のようなものを持ち出し、天井に向けて何発か連射した。
 凄まじい音がして天井からガラスの欠片や砕けた天板の切れ端が埃と共に舞い落ちた。
「みんな動くな!強盗だぁぁ!」
男は叫んで周囲に鋭い視線を走らせた。

 すると、
「ハイ! 強盗さん1名様入りまーす」
カウンター内で作務衣姿で和風バンダナを頭に巻いた行員が奥に向かって声を発する。
「ヘーイ、強盗さん1名入りまーす!」
次々に奥へと伝達の呼び声がこだまする。
「お、おい、何だよ、強盗だぞ、オレは!」
 男は機関銃をバンダナ行員に向ける。
バンダナ行員はニッコリ微笑むと、
「ハイ、ご注文承ります」と元気よく胸ポケットからオーダー伝票を取り出し右手にボールペンで書き取る準備をする。
「この鞄に札束をあるだけ詰めろ!」
強盗は黒い鞄をカウンターの上に投げ出した。
「ハーイ、喜んで!」
バンダナ行員は怯む事なく、奥に向かって注文を伝える。
「札束満タンオーダー入りました!」
「はい、札束満タン用意!」
奥でキビキビと作務衣姿の行員達がサッサと札束を用意する。
 強盗の男は呆気に取られて行員達の動きを目にする。
 バケツリレーをするかのように次々と札束が強盗が用意した鞄に詰め込まれて行く。
「はい、お待たせ致しました。札束満タンでございまーす。他にご注文はございますか?」
「え? あ、そうだな、じゃ、クルマを用意しろ」
「ハーイ、おクルマ用意!」
バンダナ行員は笑顔で美声を響かせる。
「ハイ、クルマ」「ヘイ、クルマ!」
と順繰りに奥へと伝わり、
入口ドアから、別のバンダナ行員が、
「ハイ、おクルマ用意上がりました」
と威勢の良い声で会釈する。
「お、そうか、そ、それは、随分、手際がいいな。じゃオッケー、あばよ」
「またのご来店をお待ちしておりまーす」
 気持ちの良い掛け声を聞きながら強盗は鞄を手に外へ向かう。たまにはこんな良い事もあるんだなと機嫌良く用意されたクルマに乗り込む。

「じゃ、運転手さん、どこでも良いから遠くまでやってくれ」と告げる。
「ハイ、かしこまりました」
 そしてクルマはお金も使えない人里離れた樹海の奥へと消えて行った。



おわり











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