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大嫌いだった女上司が試合に来てベンチに座っている私の真後ろに着席した話

新卒の時、ブラック企業に就職した。営業職。訪問販売だった。毎日ピンポンを押す日々だった。私の直属の上司であるA係長は女性で当時30歳だった。私はA係長が大嫌だった。

私は営業成績が良かった。入社してすぐの5月に新入社員300人の中で売り上げ1位を決めるイベントがあった。私はぶっちぎりの1位だった。授賞式では豪華ディナーを頂き、ご褒美にグアム旅行までもらった。

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A係長もその結果に喜んでくれた。私もA係長が喜んでくれて嬉しかった。

授賞式に来ていくドレスに悩んでいたらA係長が「これ私が前に別の授賞式に呼ばれた時に来たドレス。佐々木さんに似合うと思うから良かったら着て!」って貸してくれた。めっちゃ嬉しかった。

でも、半年くらい経つと私たちの関係は悪化した。

理由は私が仕事に飽きてしまって、適当に営業をこなすようになったから。適当に仕事をしているのがA係長にバレバレだった。

あとは、売り上げの成績が良くない日も全く反省せずに開き直っていた。とにかく私の態度が悪かった。

そんな私にA係長も見かねて注意をするけど、私は態度を改めなかった。(最低ですごめんなさい)

当時22歳とかだった私。特に仕事を楽しんでいたわけでもなく、自分の人生に目標もなかった。自分は20代半ばくらいで結婚して子供産んでゆったり暮らしたいって思ってた。だから30歳になっても未婚で毎日働いているA係長の事が理解できなかったし尊敬できなかった。

A係長とはどんどん会話が減った。

入社して2年の月日が流れた。

ある日の朝礼でいきなり所長から発表があった。

「A係長が今日で最後の出社になります。明日から別の部署へ移動します。」


え‥‥


その日の仕事は何も手に付かなかった。

大っ嫌いなA係長がいなくなる。

嬉しいはずなのに悲しかった。

A係長がいなくなった後、私は別の上司のもとに配属された。

そこでやっと気付いた。

今までA係長が、どれだけ私が仕事をしやすいように仕事を回してくれていたか。

どれだけ私の態度が悪くても何も言わず色々と私の自主性に任せてくれていたか。

A係長にも苦しい日があったはずなのにそれを見せずにどれだけ踏ん張っていたか。

全然仕事にやりがいを感じていなかったのに、私が仕事2年間もやめずにいたのはA係長が私を含めた部下達全員が居心地よく過ごせる空間を作ってくれていたから。そしてそれって誰にでもできることじゃないって事にも気付いてしまった。


A係長がいなくなった1ヶ月後、私は退職した。

退職する前にA係長に連絡して会ってもらった。

今まですみませんでしたって泣きながら謝る私にA係長は困っていた。

その涙の懺悔をきっかけに私とA係長はめっちゃ仲良くなった。

A係長は転勤で遠くに引っ越したけど、定期的に会うようになった。二人でご飯に行くようになった。

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仕事の話も恋愛の話もいっぱいした。当時の彼氏の相談もめっちゃしてた。

一旦仕事を辞めて余裕が出来た私には、新しい目標が出来ていた。プロのスポーツチームで英語を使った仕事がしたいと思うようになった。

A係長は彼氏ができて結婚した。お子さんも生まれた。

生まれた次の日すぐに病院まで会いに行ったりもした。

お子さんと一緒に出かけたりもした。

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そして26歳になった時、私は目標を叶えて大阪のプロバスケチームで通訳兼マネージャーの仕事をすることになった。

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A係長は旦那さんの仕事の都合で大分へ引っ越してしまった。関西からは遠く、スポーツチームでの仕事は激務だったのでなかなか会えなくなった。

また月日は流れて28歳になった。私は京都のバスケチームに在籍していた。

そしてたまたま試合で大分に行くことになった。A係長に連絡したら試合に来てくれることになった。

大分の体育館。よくある地域のこじんまりとした体育館。

私はスタッフとしてベンチに座って仕事をしていた。

試合開始の少し前にA係長は子供の手をひいて会場に現れ、私が座っているベンチのすぐ後ろに座った。(この写真は別の日のですがこんなイメージです)

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嬉しかった。めっちゃ嬉しかった。

その日の試合の内容は何も覚えていない。でもA係長が来てくれて嬉しかったって感情だけは今もあの時と同じくらい感じる事ができる。

本当は満員の会場で仕事をしているカッコいい姿を見せたかったけど、観客はたったの74人だった。(明らかに少なすぎて隣にいたテツさんと数えた 笑)

A係長は「子連れにはお客さん少ない方が客席広く使えて助かるから!」って言ってくれた。


26歳で初めてスポーツチームに入った時「もっと早く入っていればなぁ‥遠回りしちゃったな‥」って思ってた。新卒の時にブラック企業でA係長と働いた2年間が無駄だったんじゃないかって悔やんだ事があった。

でも違った。全く無駄じゃなかった。

A係長との時間があったから、A係長がこうやって試合に来てくれたから、だから目標を叶えた喜びが何百倍にもなった。

シーズン中の何十試合のうちの一試合が、一生忘れない程の思い出になった。


そんな風に、きっと今は正解だと思えない出来事も、予想できない形で最高の未来に繋がる気がする。

人生ってそうやって繋がっていくんだろうな。






















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