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血は水よりも濃い?

この言葉、血の繋がった者同士の絆は何よりも強い、とか深い、というような意味ですが、

昔からちょっと違和感がありました。

わたしの育った家は両親と妹2人と祖父母、という6人家族で、
一見普通の家庭なんですが、

実は、母と祖父とは血が繋がっていません。

わたしが産まれてすぐに両親が離婚して、わたしは父に引き取られることになりました。

その父は幼い頃に自分の父親を亡くして、祖母が今の祖父と再婚したのだそうです。


『血は水よりも濃い』という言葉を聞くと、
自分が育った家や家族が、他の家族よりも縁や絆が薄い、と言われているような気がして、
ちょっと悲しい気持ちになるというか……


小さいときは祖母が母親がわりでした。

子供っていうのはすごいもので、
母親がいなければいないなりに育っていくんですよ。

幼い頃の私は、母親っていうものが存在している、ことすら知らなくて、
家は商売をしていたので、周りにはいつもたくさんの大人たちがいたし、
特別、寂しく感じることもなかった、

それで、5歳か6歳の時に今の母親と父が再婚したので、晴れて私にも母親ができたんですが、
最初はとにかく嬉しかったんです。

母は優しくしてくれたし、
血が繋がってないからどうの……なんてことも考えなかった、

でも、すぐに妹たちが生まれて、
わたしも成長してだんだん自我も出てきたり、思春期になっていったりすると、ちょっとずつ母との間に違和感というか、すれ違い、みたいなものを感じていきました。

とても些細なことや言葉が気になったり、引っかかってしまって、ギクシャクとした時期が結構続きました。
母もそれは感じていたと思います。

母の、わたしと妹たちに対する態度の違い、みたいなものを過度に感じて、
僻んでいたというか、悲劇のヒロインのような感じでいたかもしれません。


今考えてみると、妹たちとは6、7歳離れていたので、小さい子に対する態度と、大きな子に対する態度は普通の家でも違って当たり前なんですよね、
冷静に考えればわかることなのに……

夜、自分の部屋に行くとき、
両親と妹たちが一緒に寝ている部屋の前を通ると、すっごく楽しそうにしている声が聞こえてくるんですよ、これぞ一家団欒、みたいな、

で、自分はその声を聞きながら1人の部屋に行く、

多分、そこに私が入って行っても、拒否られることはないのはわかっているんです、
でも、自分がその場に入って行ったらきっと白ける、となんとなく感じるんですよ、子供ながらに……

それも僻み根性からきていたのかもしれませんが、


なので、別に母親と対立していたわけではないけれど、
なんか息苦しいというか、
「居場所がない」感があったというか、
鬱々、悶々としてました。


母もわたしも、お互いに触れられない、目に見えない一線、というものをどこかに感じながら暮らしていたように思います。


でも、そんなある日、
何がきっかけかは忘れてしまったんですが、母親が不意にわたしに言ったんです。
「はじめてあなたを見た時、この子の母親になるってピンときた」って、

その時の気持ちを、どう表現すればいいのかわかりませんが、
今までの思いや、感じてきた感情が一気に湧き上がってくるような……

とても胸がいっぱいになって、
「母とは血の繋がりはないけれど、親子になる運命だったんだ」
ってごく自然に思えたんです。

それからは、心のわだかまりはゆっくりと溶けるように消えていきました。
世の中には、血が繋がっていなくても、濃くて深い縁や絆は存在する、
そう思えるきっかけになった出来事です。

今では親子というより、女同士の親友のような関係で、

最近母は、歳のせいなのか、時々わたしと血の繋がりがないことを忘れている節があり、ちょっと怖くも感じるんですが、なんか、ここまでくるとお互いそんな事はどうでもいいような気持ちでいるのも、正直なところです。


最後に、祖父についてもちょっとお話したいと思います。

祖父とは本当によく喧嘩をしました。
性格が似ているのか、お互い絶対に引かないんです。

まあ、ほとんどわたしが突っかかっていたんですが、

なので正直あんまり好かれてなかったんだろうな、と思っていました。

祖父が亡くなったとき、叔母から不意に手紙を渡されました。
祖父からわたしに宛てた手紙でした。

「あなたが大きくなって、自分の母親のことを尋ねてきたら、この手紙を渡すようにって、預かっていた」
と叔母は言いました。

そこには、生まれてすぐに母親を失ったわたしを心配する祖父の気持ちが詰まっていました。

本当の孫じゃないのに、いつも突っかかってばかりいたのに、
こんなにわたしのことを想っていてくれたんだ……

そのことに驚いて、感動して、
感謝の気持ちでいっぱいになりました。


『血は水よりも濃い』

確かにそうだな、と思います。
血縁関係というのは切っても切れないものだし、自分のルーツに繋がる大事な絆です。
時にそれが重圧に感じられることもあれば、この世界を生きていく支えにもなる。

でもそれだけが深い縁や絆を生むわけじゃない。
全くの他人と奇跡のような縁を結んで、切っても切れない絆を紡いでいくことだってある。

夫婦の縁、というのもその一つかもしれません。


時々思います、わたしは運がいいのか悪いのか?
生まれてすぐに母親がいなくなるのは、一般的に見れば運が悪いのかもしれないけれど、
その代わりに、縁の不可思議さや、それを育んでいくことの大切さに気づくことができたし、
何より、奇跡のような縁に巡り合うことができたので、
結構、運がいい方なんじゃないかな、と思っていたりします。


最後までお付き合いくださり、

どうもありがとうございました。




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