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頑張りたくても頑張れない人もいるという話

私は3年前にインドに渡航し、スラムの女性たちの経済的自立を目指し、雇用創出する事業を立ち上げた。

これからは貧困家庭の子供たちに教育機会を届けるべく、活動している。

これまでの女性の自立事業においては、貧しい家庭環境で育ったことから、小学5-6年生くらいで中退した子が多く、英語は勿論、母国語のヒンディー語の読み書きもできない子たちを雇用してきた。

月次ミーティングの後のランチ会

教育を受けていない=読み書きそろばんができないということは、日常生活は勿論、仕事でも支障をきたす。

教育を受けていないことのデメリットは大きく

  • 計算ができないので家計管理ができず収支が合わない(つけ払いをしている人が多く、気づいたら物凄い借金になっているなんてこともザラ)

  • 情報収集ができず、契約書も読めないので、騙されてしまう

  • 薬剤の判別ができず、注意書きも読めないので、怪我などに繋がる

  • 客先の住所、地図が読めない

  • 子供の宿題を見てあげたり、教えることができない

など他にも細かなことも挙げたらキリがない。

読み書き算盤(=基礎学力)だけでなく、社会で自立して生きていくうえで、ライフスキルも同じくらい重要だと思っている。

ライフスキルとは、日常生活の中で生じるさまざまな問題や要求に対して、建設的かつ効果的に対処するために必要な心理社会的能力

WHO(世界保健機関)


ライフスキルの重要性を痛感し、わたしは何もすることができず、ただただ悔しかった出来事がある。

以前、デリーの街外れのスラム街の女性達向けに、パソコンのスキルトレーニングを始めるべく、メンバー第一号の採用活動を行った。

採用枠は1名のみだったが、スラム中に口コミが広がり、仕事を探している母親が30名以上も集まり、割と大規模な選抜試験を行うことになった。

選抜試験をこなす女性達。この日、人生で初めてPCを触る女性ばかりで皆ワクワクしていた。ちなみに、インドの酷暑、40度超えの室内×エアコンもファンもなく、時々ぶっ倒れながらの過酷な採用活動だった。


その中でも、試験の結果がトップだったのは、ロシニ(18)。

ロシニは勉強が好きだったが、コロナ禍で両親が職を失い、経済的に厳しい状況に置かれたため、Class8でドロップアウトした。

それと同時に、両親が結婚相手を連れてきて、お見合い結婚して一児の母となった。

そんなロシニは、初回の面接から、受け答えが明瞭で、優秀で真面目な印象だったが、選抜試験で行った簡単な作業についてこんな質問をしてきた。


「この仕事を通して、わたしは誰に、どのように役に立つことができるの?」


人生で一度も使ったことがなく馴染みのないパソコンの仕事で、ほとんどの子が操作を覚えることで必死な中、彼女はこの仕事の意義を理解しようと努めていた。

ちなみにロシニの家庭は、家族9人のうち、ロシ二の母親、父親、夫がそれぞれ不安定かつ低賃金で家計を支えている。家賃が払えず住むところもなく、路頭に迷っていたところをNGOの人に助けてもらい、施設で暮らしている。

ロシニは2歳の子の子育てで精一杯。
夫は日雇い建設労働の仕事で、不定期で月に10~15日間くらいしかない。

父親は体調が悪く思うように体が動かず不定期で働いており、母親はお掃除のメイドとして低賃金で働いている。

さらにロシニは4姉妹の長女で、妹たちはまだ中高生で学校に通っている。

こんな中でロシニは、
「私は英語とヒンディー語の勉強をするのが好きで、先生になりたくて大学まで行きたかった。でも、家計がこんな状況だから、私が働いて家族を支えたいし、妹と自分の子供が大学まで行けるように、働きたい」

と話してくれた。

私は彼女の想いを応援したいと思い、ロシ二に合格を出した。

ロシニはうちで働けることをとても喜んでいて、ロシ二のお母さんも妹たちもみんな喜んでいた。


しかし、結論から言うと、



ロシ二はうちのトレーニングに1日も来ることなく、辞めてしまった。


選抜試験を行ったスラムの近く

私たちの会社は、貧しい母親たちが、安定的に収入を得ることで、その子供たちが貧困の連鎖から抜け出せる未来を目指して立ち上がった、ロシニのような人たちのための組織だ。

なので、学歴や職歴は関係なく採用するし、ゼロからスキルトレーニングを行う。一方で、生活が安定するようにフルタイム雇用をし、パフォーマンスに応じて収入が上がっていく仕組みをとっていた。

このスラムの近くに、学歴も職歴もない人たちを雇用する会社はなく、彼女たちにとっては、メイドか、ラグピッカー(ゴミ拾いをして生計を立てる人)、日雇い建設労働者くらいしか選択肢がない。

私たちと一緒に働ければ、一気に経済状況が安定したはずなのに。

NGOの職員も、ロシニの両親も、妹たちも、周りの女性達も、みんながなぜ?と疑問に思っていた。

NGOの職員や私たちはロシニを説得し、何とかデリーに戻ってくるようにコミュニケーションをとり続けた。

その後、ようやくロシニと話すことができたが、

「旦那さんが村に帰るといってるから、しばらく戻ってこれない。トレーニングには参加できないと思う」と言い残し、村に帰ってしまった。

ロシニは心から働きたがっていた。

が、後々わかったことは、ロシニの夫は、自分よりも先にロシ二が稼ぐことが許せず、働くことに反対していたそうだ。

言うなれば、夫のエゴでロシ二は仕事を得ることができなかった。

にもかからわず、後にNGOの職員に聞いたところ、ロシニの夫は仕事もせず相変わらず村でフラフラしていたと聞いて、なぜこんなことになってしまうんだろうと悔しかった。

なので、私もNGOの職員も必死にロシニの夫を説得しようと試みた。しかし、連絡に応じることすらしてくれなかった。

ではどうすればよかったのだろう。ロシニが自ら夫を説得できればよかったのだろうか。

ロシニは夫を説得することはできなかった。でも、それはロシ二のせいなのだろうか?

私は違うと思う。
男尊女卑が根強く残り、家庭やコミュニティの中で、ほとんど発言権のないスラムの女性たち。仕事、お金、子供の教育のこと、何でも意思決定は男性がする。

このような文化的背景がある中で、学校をドロップアウトしている女性は、「意思を伝える」「意思決定する」「説得する」など、ライフスキルを持ち合わせていない。

私たちが当たり前のように、人とコミュニケーションをとり、身の回りで起きる問題を解決し、努力し、何かを意思決定することができるのは、親、地域、学校教育の中で学んできたからだと思う。

私たちがチャンスをつかみ、努力できるのも、環境と教育が与えてくれたスキルだ。

ロシ二に何もすることができず、とても悔しかったことを忘れないように、私は基礎教育はもちろん、子どもたちにライフスキルもしっかり学んでいってもらいたいと思っている。

私はこれまで雇用創出をしてきて、これから教育事業に取り組もうとしている。雇用創出も教育もどちらも大事で、「貧困の連鎖を断ち切る」ための特効薬など存在しない。

でも、学びを活かして、前に進み続けることは、きっと未来をよくすることに繋がると信じて活動している。



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