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つむぎ

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詩人・佐藤咲生。
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2021年10月の記事一覧

詩「何か、たとえば飴玉のようなもの」

町をただ歩いていくことこそ
こんなにもわたしを取り残すことはない
風のにおい、乾く肌、侵される耳
鼻から吸った息は肺から体中にひろがり出口などないのに
わたしの体内に四季をひろげていく
咲く花と枯れる葉が交互に散らばる
「わたしをもう一度あの場所に戻して」

いくつもの隠し扉を開けると
こんなところに出てきたのかと驚くような日々
その驚きは飴玉のように小さくくるまって
かわいらしい色をして、わたし

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詩「煙」

いちばん優しくもなるから
それ以上 景色が濁らなくて
すこし苦しい

人が亡くなることに
接するとはどういうことなのか
あなたが亡くなった今になっても
よくわからないなぁと思いながら
仏壇から下げた
まんじゅうを食べる

線香の煙が踊る
わたしたち今もずっと
流れ続けているよね

詩「空がきれい」

今日という日を宇宙は殺す。
そう伝えるために空は夕焼け色に染まる。
ありのままでいたかったのに、
今日も何かを演じてしまった心の
錆びた香りのなかに思いだす優しさ。
あなたのことが嫌いなわたし。

嘘みたいにきれいだったものは、
基本的にぜんぶ嘘だった。
もうじき絶える今日のなか、
綻ぶ水色のなかに
過去のわたしの門違いを見送る。

(でも空が、やはり、嘘みたいにきれい。)

淡々と殺されてくれる

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詩「草いきれ」

夜通し降った雨
翌日はむせ返るような夏日で
青草が空を引き寄せる
きょう、わたしは世界そのもので
もうどこへ行くことも
またどこへ来ることもできないのだと悟った
みんな、生まれて来ることはもうできない
だからいつも今日が永遠なんだ
身支度を急がないで
わたしが生きるうち、わたしの細胞が、世界を流し続ける

詩「水際」

レモンの匂いがする化粧水を頬につけて
夏を待ってた
鏡に映る私の裸へ
これが愛しさ
これが優しさ
これが狂おしさ
と、痕をつけてくれるだれかを願い
からだを十二分にうるおわせ
静かに息を止める

日中の溌剌とした空気の中を
ただ沈み込んでいくことしかできない
日差しを浴びて酸化する私のからだは
涙で錆びる
それゆえに心を閉ざすことなど
本当はとても高慢ちきなことで
ただ傷つかず死んでゆくためだけに

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