詩「何か、たとえば飴玉のようなもの」

町をただ歩いていくことこそ
こんなにもわたしを取り残すことはない
風のにおい、乾く肌、侵される耳
鼻から吸った息は肺から体中にひろがり出口などないのに
わたしの体内に四季をひろげていく
咲く花と枯れる葉が交互に散らばる
「わたしをもう一度あの場所に戻して」

いくつもの隠し扉を開けると
こんなところに出てきたのかと驚くような日々
その驚きは飴玉のように小さくくるまって
かわいらしい色をして、わたしの手のひらにちょこんと乗せられた
透明なセロファンに包まれた丸いキャンディを
舌のうえで転がして、溶かしてみる
そしてわたしは残されたセロファンを
ただ、持て余して
君がいたころの思い出を
折り畳んだり、ひらいてみたりしてる

たった一粒の祈り
たった一粒の出会いに
ひと時の甘さがあった、それだけのことだった
春夏秋冬すべてを抱きかかえた君が
わたしの体中の季節を呼び覚ますのも無理はなくて
だから、町を歩くだけがこんなに、切ないのかもしれない
潤った舌先で言葉を弾こうと試してみるのに
寂しさが、寂しさが、鼻をついて
言葉なんかなんにも出てはこなかった
歩き出すたびに、わたしと君の季節を引き裂く
ポケットに折り畳んだセロファンを仕舞って
季節の変わり目、風邪をひかないように、お守り。



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