詩「水際」

レモンの匂いがする化粧水を頬につけて
夏を待ってた
鏡に映る私の裸へ
これが愛しさ
これが優しさ
これが狂おしさ
と、痕をつけてくれるだれかを願い
からだを十二分にうるおわせ
静かに息を止める

日中の溌剌とした空気の中を
ただ沈み込んでいくことしかできない
日差しを浴びて酸化する私のからだは
涙で錆びる
それゆえに心を閉ざすことなど
本当はとても高慢ちきなことで
ただ傷つかず死んでゆくためだけに
涙をこらえた訳じゃない

だから、光を浴びるのです

闇夜を裂いて
朝陽へと進んでゆく鋼鉄の船
沈没する船にも美しさを求めた
苦しむ人が溢す荒い息の音が
何よりも気持ち良いことをもう知っている

今日も私はレモンを漂わせ
気づけばいつもの水際にいた
みんながとっくに漕ぎ出でてしまったらしく
水面には波紋ひとつ残ってないけど
私のからだは美しい重さ
朝の光が肌に射しこんでいる



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