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名もなき晩ごはんに名を付けるとき

「ごはんは、つくるものではなくて、準備するもの。」

いつか、どこかでこの言葉を聞いてから、私の心は、すっと、軽くなった。

晩ごはんは、つくらなくてもいい。
買ってきたお刺身でも、切っただけのサラダでも。きちんと家族みんなが食べられるようにテーブルの上に並べて、準備すること。
それが、立派な家事だということ。

長女 (3 歳) は、食後のバナナを、美しく盛り付ける。

切っただけの、ふつうのバナナ。
それを、大きなお皿を持ち出してきて、飾る。
フランス料理みたい。

フォークを使いながら、背筋をピンと伸ばしてバナナを味わう 3 歳の姿は、銀座のマダムみたいだ。

私は長女の、この盛り付けられたバナナを「バナナ・アニバーサリー」と名付けている。
これを見ていると、結婚記念日にすごく笑ったレストランのことを思い出すからだ。

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まだ子どもたちが生まれる前のこと。
長女がお腹にいて、これから暫くはゆっくりとごはんができないから、と、夫とふたりで結婚記念日にお洒落なレストランを訪れた。

全部で 5 品ぐらのお品書きだったけれど、その一品目にこれが出てきた。

・・・ 夫と目を見合わせて笑う。 (これが 1 品目? 全 5 品じゃぜったいお腹いっぱいにならないよね…笑!)

その名は「水牛のモッツァレラと金柑のマルメラータ」

帰り際に、お店から出て二人で大笑いした。
「あんな名前で、大きな 30 cm 程もあるお皿で出てきて、なのに、あんなかわいいサイズのが乗ってるなんて思わないよね♡」
すごく楽しいひとときだった。 (ちゃんと、5 品で大変美味しく大満足に戴きました^^)。

時を経て先日。家族四人になってからはじめて、淡路島を訪れた。
すごくひさびさのホテル。その朝ごはんが、すごく美味しかった。

正しく言うと、もう、食べる前から、すでに美味しかった。

バイキングだったのだけれど、それぞれのおかずが「放し飼い鶏の朝産み卵のオムレツ」とか「瀬戸内の春の光を浴びたレモン」とかいったふうに名付けられていて、名前だけで既に美味しかった。

今月は、春が近づき、保育園の給食もとても、うるうるする献立だった。

メニュー自体は、いつもとパッと見、変わりない。
けれど、今月は毎日が、もうすぐ卒園する園児さんの、だれかの「リクエストメニュー」だったのだ。

「今日のお給食は、〇〇ちゃんのリクエストメニューの、□□です!」

3 月のお昼の時間は、毎日そんなふうに始まる。

今日のこのメニューは、どんな子が、どんな思いで、選んだメニューなんだろう…。

メニュー名を見ながら、そう思った。

まだ手づかみ食べの 0 歳の赤ちゃんの頃に入園して、次第にスプーンを持てるようになって、今ではお箸できれいに食べられるようになって…、来月からは小学生。
何年も、毎日たのしみにしてきた保育園のお給食の時間。
そのなかから、その子がひとつだけ選んだメニュー。

いろんな思いが巡る 1 枚の献立表を眺めた。

同じごはんでも、感じ方で、美味しさは変わる。
だから、家でも晩ごはんに名前を付けている。

今日は「しいたけ祭り治部煮」だった。
昨晩に、茶碗蒸しをつくったのだけれど、その時にせっかく朝から戻しておいた干し椎茸を茶碗蒸しに入れ忘れたので、今日はその余っている椎茸をふんだんに使ったしいたけパラダイス治部煮になったのだ。

だいたい、なにかを入れすぎた時は、祭りとかパラダイスとか言うと、失敗なんて無かったことになって楽しくなる。
毎日いろいろ名付けて、楽しんでいる。

もう何回もつくっている、いつもの晩ごはん。

けれど、娘たちや夫は、毎日新鮮に、
(夫)「う〜ん!おいしい」
(長女 3 歳)「おかあさんの、つくってくれる おりょうり、おいし〜い♡」
(次女 1 歳)←無言でピカピカに早食い

なんとも幸せに感じる。

いつものごはんにちょっといい名を付けて、ちょっとひとこと「おいしい」と添えてみる。
たいした晩ごはんを “つくらなくても”、そのすこしの言葉選びが、毎日のごはんを家族みんなでおいしく “つくって” いるように感じる。


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