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日本一わかりやすい日本酒入門③   日本酒用語いろいろ

概要

日本酒は色々な種類がありますね。
「純米」とか「吟醸」という分類は前回お伝えしましたが、その他にも
「無濾過生原酒」「生酛」「山廃」「あらばしり」とか様々な用語が登場します。

これらの用語を全て正確に覚えないと日本酒は理解できないの?

そんなことはありません。
難しそうな用語はざっくりと「そういうものなのね」くらいの理解で良いです。用語はあくまで日本酒選びのヒントでしかないので、正確な意味よりは用語から派生するイメージが共有できれば十分です。

今回は難しそうな日本酒用語をざっくりイメージできるようなお話です。

日本酒分類について知りたい方は前回参照


日本酒用語をざっくりと覚えよう

日本酒用語の細かい解説の前に、一般的な日本酒が出来る工程を見ていきましょう。

見て欲しいのは図の真ん中あたり青い部分(上槽)から下半分です。
細かい説明は後にしますが、

一般的な日本酒は上槽つまり絞った後に、
濾過 火入れ 貯蔵 割水 という工程があります。

今は用語の意味ではなくそういう工程があるのね。とだけ理解してください。

つまり一般的な日本酒は上記の工程をたどるが、
これから説明する様々な日本酒はその工程のどれかを省いてるだけ。
ということです。

省くことに意味があるのか?

一般的な日本酒は品質が劣化しないように、または味を整える為に様々な工程を経て出荷されます。

蔵元が「ちょっと特別な酒にしよう」とか「こういう味にしたいからあえてこの工程を省こう」という目的で造られるのがこれから説明する酒です。

ですからこれらの酒は限定品だったり管理が大変だったりします。
本数も多く作れません。

つまり劣化防止をしないからデリケートな日本酒です。良い味に仕上げても流通過程や消費者の管理次第では味を損なうリスクもあります。

また味の調整をしないので最初から狙った味に仕上げる難しさもあります。

一般的な日本酒=いつも変わらぬ定番のおいしさ。
「無濾過」「生酒」「原酒」などの特別な表記の日本酒=特徴のあるおいしさ。管理はややこしい。

ざっくりと上記のイメージです。どちらが旨いではなくそれぞれに良さがあります。

無濾過生原酒ってなんだろう?

日本酒のラベルや瓶に貼ってあるラベルに「無濾過生原酒」とか書いてありますよね。あれの意味をざっくり説明していきます。

無濾過

上記図の「濾過ろか」をしていない日本酒です。
通常は「炭素濾過」と言って活性炭に不純物を吸着させ不純物を取り除く「濾過」という工程があります。
その「濾過」をしていない日本酒です。

濾過はクリアできれいな味の為には必要な工程ですが、旨味やしっかりとした味を出したいときはあえてやらない場合があります。
そのあえてやらない日本酒だと認識しましょう。

生酒

「生」とは上記図の「火入れ」をしていない日本酒です。

火入れをするのは「殺菌」つまり発酵や腐敗の元である微生物の活動を止める為です。
火入れをしないと味が変化してしまったり、劣化してしまうリスクがあります。
ゆえに「生酒」は要冷蔵なのです。

あえて火入れをしないで生酒にするのは、しぼりたての風味やフレッシュな味を提供したいからです。

この説明をすると通常酒より生酒の方が良い酒だと思う方もいますが、そうでもないのです。

例えば釣りに行きアジが釣れました。
その釣りたてのアジの美味しさを存分に味わうのは「刺身」です。
ところが遠方に住む友人に食べてもらおうとした時に「刺身」で送っては劣化して美味しく食べてもらえません。
ですが、釣りたてのアジを「干物」にして送れば遠方の友人も美味しく食べてもらえます。

「刺身」と「干物」はどちらが良いものでしょうか?
そうです。どちらもそれぞれの良さがあります。
生酒も通常酒もそれぞれの良さがあるんだな。とイメージしていただけると幸いです。

ちなみに生酒には「本生」「生貯蔵」「生詰」の3種類がありますがここでは省略します。

原酒

上記図の「割水」をしていない日本酒です。

日本酒って水で割ってるの?と驚く人もいますが、アルコール度数や味の調整のために少量の水を加水しています。

通常の日本酒はアルコール度数が15~16度です。
原酒は割水しないので17~18度だったりします。
また最近では原酒で13度の日本酒なんてのもあります。
仕込みの段階から計算して原酒のままでも低アルコールに仕上げる酒もあります。

造ったそのままの味を提供しようという試みですが、その分仕込みの調整は難しくなります。

これもどちらが良いというわけではなく、好みとコスパによります。

山廃、生酛ってなんだろう?

山廃とか生酛ってラベルで見ますよね。
なんとなく硬派なイメージですよね。それで正解です。

詳しく説明するとややこしくなるのでここもざっくりといきます。

一言でいうと昔ながらの作り方の日本酒です。

速醸って何?

通常の日本酒は「速醸」という方法で仕込みます。
これは明治時代末期に開発された方法で現在では9割の日本酒に使われております。
それ以前は生酛で造っていました。

日本酒の発酵において「乳酸」の働きが重要です。
仕込みタンクの中の雑菌を減らして発酵に適した環境にしてくれるからです。
明治末期にこの乳酸の働きが発見され、人工的に乳酸を添加する方法が編み出されました。これが「速醸」です。

それまでは自然界の乳酸菌が知らないうちについてこの役割をしてくれていました。これが「生酛」です。

「山廃」は生酛造りの「山卸し」という工程を廃止したやり方。山卸しを廃止で山廃です。

画期的な発見

まとめると、現代の主流が乳酸を添加する「速醸」
ラベルには特に表記しません。9割なほど主流ですから。

それに対し昔ながらの仕込み方(乳酸を添加せずに自然にまかせる)で造ったのが「生酛」
生酛の派生が「山廃」

速醸VS生酛+山廃連合みたいな感じです。

速醸はメチャクチャ画期的な発見でした。
いつ付いたかついてないのかわからない乳酸菌頼みでは自然環境に影響されますし、品質が安定せず最悪お酒にならないリスクもあります。
さらに酒母をつくるのに生酛では30日ほどかかるのに対し速醸では15日ほどに短縮できたのです。(まさに速くなったので速醸)

メリットデメリット

ではなぜ面倒くさくてリスクのある生酛や山廃を造るのか?

生酛でないと出せない味がある。
しっかりとしたボディやコクのある味を目指すと生酛が向くそうです。

ここも生酛が速醸より良い酒というわけせはなくそれぞれの良さがあります。

例えるなら生酛は天然魚。速醸は養殖魚。とイメージして下さい。

天然魚のほうが美味しいというイメージの方もいると思いますが、
天然魚すべてが美味しいわけではなく、当たりはずれがあります。
養殖魚も最近では技術が向上して美味しくなっています。しかも品質が安定しています。
天然は獲れない時もありますし旬の時期は良いけど旬を外すと味が落ちる場合もあります。

そう考えるとそれぞれの良さがありますね。

生酛は天然魚のように旬をとらえて上手くいけば養殖では出せない良さを得られる代わりに失敗のリスクもあり手間暇もかかる。

速醸は天然魚のように品質は安定してある程度狙った味にしやすい。
しかも旬に左右されず一定の良さを保てる上に手間も省ける。

ざっくりのつもりがだいぶややこしい説明になってしまいました。
この辺の話はなかなか一回では理解しにくいかもしれません。
なんとなくで十分だと思います。

用語の意味を正しく理解するよりも、この用語が書いてある日本酒はこういう酒なのかなとイメージできたほうが日本酒選びの楽しさに繋がります。

私は昔から疑問でした。
純米吟醸と大吟醸や生酒と火入れ酒など同じ銘柄でなんでこんなに種類を造るのか?
どういう理由でランク付けしてるのか?

その質問を蔵元さんに聞いたことがあります。
その答えはシンプルでした。

「目指す味を出すための方法だよ」

出したい味がゴールにあって、その味を出す為にはこの米で何パーセント磨いて生酛造りで、無濾過にして火入れするなど工程を選ぶと。

我々が生酒はとか吟醸だからとかは造っている人はあまりこだわっていないんだと。

もちろん「生酛にこだわってます」「純米大吟醸しか造りません」という蔵もありますが、それは製法にこだわっているのではなく目指す味に対してこの製法でなくては出来ないというこだわりらしいのです。

わたしも料理人なので共感しました。
料理もこの味にするために「こう切って」「この火加減で」など調理します。こだわっているのは調理法ではなく味です。

ですので製法や用語の意味はざっくりでかまわない。
飲んだ味で美味しければ良し。この味を出そうと試行錯誤されたのだなあと思いめぐらすのが楽しいのではないでしょうか?

まとめ

〇通常の日本酒は品質保持と味の調整の為に様々な工程がある。

〇特別な味にする為にあえて一部の工程を省く時がある。
 →無濾過生原酒など

〇生酛、山廃は昔ながらの作り方。

〇日本酒の優劣は製法ではない。それぞれの製法に良し悪しがある。

〇様々な製法は手段であって目的ではない。

今日はこれくらいにしておきます。
色々な日本酒を楽しむ参考になれば嬉しいかぎりです。



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