【中国映画感想】妻消えて/消失的她

ネットフリックスで何を見ようか考えている時にふと、これにしようと思い至って見てみたので個人的な感想を書き留めておく。

※以下ネタバレあり。

おすすめ度　☆☆☆
適度な緊張感と適度な意外性あり。

正直あまり期待はしていなかった。
新婚旅行で東南アジアを訪れた夫婦、フェイとムーズ。
しかし妻のムーズが突如失踪し、妻を名乗る別人が現れて……。
そんなあらすじにそこまで期待していなかった。

でも面白かった。

序盤は嫁が失踪したと言い張る頭のおかしな旦那の構図が良かった。
フェイ以外は全員が「いやお前の嫁はお前の目の前におるがな」と言った状態で、視聴者に「おかしいのはフェイなのか周りなのかを分からなくさせる」のが上手かった。

そして話が乗ってくると「やっぱりおかしいのは周りだ」と思わせてきては「ムーズが黒幕じゃね？」のミスリードも良かった。
割としっかりそのミスリードに乗った。
「確かに嫁が関わってないと馴れ初めとか分かんねぇよな」と思っちゃった。

そんな視聴者に畳みかけるのが「フェイのクズ男ムーブ」である。
嫁を探す一途で優しい旦那が蓋を開けてみるとギャンブル狂いのクズ男だったのが非常に良かったし、そのクズっぷりが小出しだったのもかなり好きな演出だった。
「もう隠してる事ないな？」「まだあるやんけ！」「もうないな！？」「おいてめぇこの野郎！」
この展開がよりフェイのクズっぷりに磨きをかけていた。最高。

そしてフェイが精神病院に入れられ縛られ、髪の毛を剃られる辺りはもう緊張感マックスで面白かった。
「髪の毛剃るって頭開かれるやつやんけ！」と手に汗握ったね。

まあマジでクズ男だったので手に汗握る必要もなかった訳だが。
あそこで殺されてて良かったよてめぇこの野郎！！！
「俺に金を渡さんムーズが悪いんや！だって結婚式の時に富める時も貧する時も支え合うって誓ったやん！」とか言うのマジでクズ男で一周回って好き。
「はー……金ねぇわどうっすかなー……」の時に、失踪した嫁の財産を全て相続した旦那のニュースを見て「これだァ！！！」ってなるの本当にどうしようもないクズ。
潔くて一周回って好き。

弁護士が実はムーズの親友のマンだったのもありがちではあるが好きだ。
だから実は弁護士である事さえもが嘘だったのが良い。
「そう言えばマンが弁護士だってフェイが知ったのはクラブのテレビで流れていたニュースだけだったな」と、要は「マンの息のかかっていない所では知っていない」のがちゃんと辻褄が合っていて良かった。

また、作中ちょくちょくと回想シーンが挟まれるのだが、それが登場人物の深掘りになっていてとても良い。
話が進んでいくと少しずつその回想シーンも意味が変わってきて、「最初に出したシーンは実はこんな裏がありました」となるのが好き。
フェイとムーズがゴッホの絵を見に行く綺麗なデートシーンが実は、フェイが周到に準備してムーズの心を掴む為に「ゴッホが好きなフリをしていた」シーンに変わるのが一番好き。

そして最後でムーズが死ぬ時に自分でゴーグル等を外して、海中から空を見上げているシーンがとても綺麗で好きだ。
とんでもない裏切りにあったけど、最後は綺麗なものを見ようと思ったのか、フェイとの楽しい思い出を思い出そうとしたのか、穏やかな顔で死んでいくムーズがとにかく綺麗なシーンだった。
そんなムーズの遺体を見つけて目を見開くマンも、死んでいるだろうとは思いつつも実際に目にするまでは信じたくなかったんだろう感がしっかり伝わってきて良い。
友情、美しい。

刑務所に収容されたフェイに突きつけられたエコー写真も、わざわざ水に濡れても大丈夫なようにしていたところを見るにムーズはフェイを信じようとしていたのが窺える。
「子供が出来たの、また二人でやり直していこう」そんな風に言おうとしていたんだろうなと。
まあ見せられもしなかったし、言えもしなかったんですけどねぇ！
新婚旅行の提案の時に見せていればフェイももしかしたら心を入れ替えたかもしれないと思うと、人間の難しい部分を感じられてとても良い。

そしてエンドロールの後にも少しだけ映像があったのだが、ここはどう解釈するべきなのだろうかと思った。
海辺で眠っていたフェイが目を覚まし、カメラを他の観光客に預けてムーズと一緒に海に入り写真を撮ってもらうと言うシーンだが、個人的にはフェイの死を暗示したのではないかと思う。
ムーズに起こされ、ムーズの後を追うように海に入る姿は綺麗な映像だが、後を追う形で死んだ事のようにも感じる。
それにわざわざエンドロールの後でその映像を入れた事も、そう言う暗示ではないかと疑わせる演出な気がする。
まあ、純粋に「あの頃に戻りたい」とか「やっぱり俺はムーズを愛しているんだ」的な感じにも見えなくはないので、監督の意図が気になるところだ。
個人的には死の暗示説を推しておく。

余談だがタイトルの「妻消えて」と言う訳し方、好き。
「消失的她」を普通に訳すと「彼女が消えた」とかになると思うんだが(她に妻の意味がない為)、ここをあえて「妻」にする事で「夫婦の事件」とすぐ分かる。
こう言う意訳は好き。

・総評
面白い。
展開が、誰がおかしい？→旦那？→周り？→嫁？→旦那？と変化があるので見ていて飽きない。
また、映画なので二時間程で見られるのも良い。
中国のドラマは五十話超えの長編構成が多いので、二時間でさくっと見られるのはお勧めポイントとしてかなりデカい。

作中にはもちろん殺人シーンがあるが、グロさは全然ないので安心して見てもらえる。

さらに全体的に映像が綺麗で、見ていると自分も東南アジアにちょっとした旅行をしている気分にもなれるのでお勧めだ。