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179. 小さな王子さま 【演劇】

わたしの好きなイタリアの演出家、テレーサ・ルドヴィコさん。
以前から高円寺でよく公演をされていたのですが、数年前に提携を止めたという話をちらっと耳にしていて、もう観られないのかもしれないとショックを受けていました。
それが今回、「あしたの劇場 座・高円寺レパートリー 劇場へいこう!」で新作を上演するとの情報を得て、喜び勇んで先月母と連れ立って行ってまいりました。

今回の演目は「小さな王子さま」。
サン=テグジュペリの「星の王子さま」を原作とした物語です。
大筋は原作と変わらず、王子さまが自分の星から旅立って、幾つもの星々を巡って、様々な気付きを得て成長していくストーリー。おなじみのバラやキツネ、ゾウを飲み込んだウワバミの絵も出てきます。

ただ原作と違うのは、出てくる星が、現代社会を揶揄したような世界が多く、社会的なメッセージがかなり露骨であること。
自然破壊やそれに対して真剣に向き合わない人類などが何度か出てきます。
リーフレットにも

世界では毎日、つらいこと、悲しいこと、美しいこと、すてきなこと、いろいろなことが起こっています。王子さまがたずねるさまざまな惑星でのできごとも、わたしたちが生きる上で必要な、深いテーマにつながっています。

とあるように、今回は演劇を通して現実の生活に目を向けてほしかったのだと
思いますが、んー、ちょっと期待していたのとは違うかも。
一応対象年齢は子供から大人まででしたが、あまり内容を理解できていないお子さんも多く見受けられました。
わたしが観たかった演劇は、現実とは全く切り離された、舞台上に描き出される美しい夢幻で、彼女の演劇に社会問題への言及が含まれるなんて予想だにしていなかったんですよね。

とはいえ幻想的な舞台美術は変わらず、随所で心躍る演出もありました。
幕が開く前、薄い幕の向こうに透けて見えた、星々を表す丸い光や、蛍を集める男のシーンの点滅する光など、照明の演出。
どこかからふわりとやってきてぱっと消える王子さまを表現するための、無数の紐を使ったカーテン。これはうっすらと後ろが透けて見え、舞台に奥行きをもたらし、魔法のような空間を作り出していました。
舞台上ではスモークがよく焚かれ、舞台が本当に砂漠に見えてくるし、幕の質感や色味も砂漠っぽかった。
狐と少しずつ仲良くなっていく場面も清らかで美しい。

それから役者には王子の浅川奏瑛をはじめ、ダンサーが多く出演しており、特に王子さまは新体操やバレエのような動きを随所に取り入れていてとても軽やかでした。観ているこちらまで何か動き出したくなるような、溌剌として柔軟な所作。
バレエ用っぽい靴もかわいかったです。


またこの劇では最後、王子さまは自分の星へ帰ろうとしますが、飛行士も王子さまも死を暗示するようなラストになっていました。
観ながら、さて原作はどんなラストだったかしら? と思い出そうとしてみるもさっぱり分からず。
上演後母に聞いてみるも、やっぱりよく覚えていないとのこと。

とりあえずwikipediaであらすじ見てみたら、何だか全然知らない話のような筋が書いてあったので、今度きちんと読み直そうと思います。(そもそも、読んだと思っていたけれど実は最後まで読んでいなかったのかもしれない……?)
間に出てくるモチーフはよく取り沙汰されているものの、話の全体像は案外知らない作品って、意外と多い気がします。


それにしても、上演後の挨拶の時に、テレーサ・ルドヴィコさんご本人も出てきていたけれど、何年経っても変わらないというか、相変わらず魔女のような人でした。
ぜひ今後もお元気で、美しく五感に響き渡るような作品を生み出して下さったらと願ってやみません。
欲を言えば「にんぎょひめ」が一等好きなので、いつかもう一度観たいなあ。

余談ですが今回、初の座・高円寺での観劇でした。(ルドヴィコさんの劇はいつも座・高円寺ではない劇場で観ていた)
高円寺に住んでいた頃も、行こう行こうと思っていたのに全然行けなかったんですよね……。
舞台と席の距離感が近く意外とこじんまりした印象でしたが、椅子も座り心地が良く観やすかったです。

地下から上階のカフェまでを繋ぐ、緩やかなカーブを描いた階段も美しく、不規則に散りばめられた丸く白いライトが目を惹きます。
カフェはお値段もお手頃で、普段使いにも適した雰囲気。しかも気になりながら一人で食べに行くのもなあと躊躇していた”ラザニ屋のラザニア”の取り扱いがあり、念願のラザニア食べられて嬉しかったです。
劇を観にきたわけでなく、ふらりと立ち寄った風の人や作業をしている人などもいて、居心地の良い時間が流れていく。
高円寺時代に、もっと来ればよかったなとちょっぴりおセンチな気分になりました。

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