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161. 火星探検 【漫画】

テン太郎少年と猫のニャンチャンと犬のピチクンが、天文博士のお父さんの話を聞いたりして火星に思いを馳せる、昭和初期の子供向け漫画です。
絵の可愛さに惹かれて読み始めましたが、寧ろ言葉や発想が面白く、子供向けと言いつつ大人が楽しめる科学入門みたいな本でした。

この面白さを、言葉遊び的な面白さ/読んですぐ分かる面白さ/考えさせられる面白さの3つに分けて、少しご紹介しましょう。

・言葉遊び的な面白さ

火星に生物が住んでゐたら面白いなあ
わたしたちのやうな猫もゐるかしら
猫がゐるとすれば、当然鼠もゐるだらうな
火星に鼠がゐるとすれば鼠トリも発明されてゐるだらうなあ
とつた鼠は交番にもつていつて買つてもらふだらうな
すると火星には交番もあるといふことになるわね

猫がいても鼠がいなくてもいいし、交番で鼠を買ってもらうってそんな害獣対策の会社のようなことを仰る……。詩のようなリズム感で、内容の可笑しみが増しています。
全編を通してこの“リズム”や“語感”が楽しいです。


・読んですぐ分かる面白さ

あなた方はトマトを種ごと呑んだ
だからトマトがお腹に生へだしたのです

小学生の頃、スイカでも柿でも何でも、種を飲み込んだらお腹の中に芽が出るんじゃないかという議論が度々なされていたのを思い出します。きっと誰しも似たような経験があるのではないでしょうか。
わたしはトマトを食べる時にそう思ったことはないけれど、そういう意外性を含めて笑ってしまいました。

なにをしてゐるのさピチクン
トマトなんかむしつたりしてのんきだわね
いやロケットに食糧を積みこまなければ!

ついさっきトマトでひどい目にあったのに(笑)
喉元過ぎれば熱さを忘るると言おうか、しっかり者と言おうか……。

望遠鏡の大きさより大切なことがある
それはなんです
それを天文学者は『グット・シーイング』といつてゐるんだ これは専門語だよ
グットシーイング 僕は天文学の専門語を覚えてしまつたぞ エヘン!
おやムヅカシイことを言つてテン太郎それは一体なんのことですか
あれまだ聞いてゐなかつた
ははははそれはね天体を見るには機械にばかり頼らないで『見るのに具合ひのいい調子』にしておくことだよ

用語の説明にもこんな風におとぼけを挟んでおくと、説明的にならなさすぎて丁度良いのだなあ。


・考えさせられる面白さ

火星ではトマトの種はたべません
種は、ていねいに出して運河に捨てます
すると大洪水のとき種は自然にまかれる
それぢや種をまかなくてもいいや

地球の上の雲はぢやまになる
しかし火星の雲を見るのは これは仕事だよ

この作品を殊に味わい深くしているのは、こうした考えさせられる言葉です。
一つの見方に囚われず、のびのび発想することを促してくれているような気がします。「思い込みにとらわれず真理を追及する」のは科学者に必要な精神なのだそうです。

全体に教育的な要素が盛り込まれているけれど、ユーモアも忘れない。特に夢は荒唐無稽に、日常ものほほんと進んでいきます。
描かれた時代が時代なので、今の感覚からするとちょっと引っ掛かる言葉や物なんかも勿論ありますが、色褪せない魅力のある漫画だと思います。
同年代の男の子が主人公であることで、子供が読むときもすっと話に入りやすそうですし、フルカラーというのも何とも贅沢で心踊ります。“真っ黒”というのがないから柔らかい印象なんですね。のんびりと、絵本のつもりで頁を繰ってみるのもいいんじゃないでしょうか。

ではまた。

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