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83. チェチェンへようこそ ゲイの粛清 【映画】

LGBTQ問題はあれこれ耳にしますが、自分の性的指向が命まで危険に探すことがあるなんて。そう思いながら観ていました。
「チェチェンへようこそ」は、ロシア支配下にあるチェチェン共和国で起こっている国家主導の”ゲイ狩り”を写したドキュメンタリー映画です。

まずチェチェンとはどういう国かと言いますと、ロシアの憲法上ではロシア連邦を構成する地域の一つであり、ロシア連邦北カフカース連邦管区に属する共和国です。
再三独立運動や紛争が起こっているものの、今は親露派のカディロフが大統領となったことで、表面的には沈静化されている状態のようです。

そのチェチェンの指導者がLGBTQが嫌いだという理由で(もしかしたら政治的な策略もあったのかもしれませんが)ある日突然性的マイノリティの人々への迫害が始まりました。
急に車に押し込まれて施設に収容され、執拗に拷問を受ける。電気ショッックや瀕死状態になるまで棍棒で殴られたり、中にはそのまま命を落とされた方もいるそうです。そうして捕らえた人から新たに性的マイノリティの友人などについての情報を得て、捕まえに行く……。
そうでなくとも、同性愛などは恥ずべきものだという価値観が浸透したせいで、家族にそういった人がいると家庭内で抹殺されたり、街中で急に襲われて暴行を受けたりすることもあるそうです。
ロシアのプーチン大統領に状況改善を訴えても、親露派のカディロフを擁護するので無意味。カディロフ無双状態だということです。


この映画はチェチェンのそうした実態を世界に示し、解決策を模索するため、当事者たちをシェルターに避難させ国外へ逃がす活動をしているLGBTQ活動団体が撮影したものです。
拷問を受けた人のインタビューやシェルターの様子、亡命させる様子などで構成さえており、現実の緊迫感や焦燥が生々しく伝わってくる映像でした。

無論安全性の確保のためシェルターの場所などは分からないように撮影されており、名前も全員偽名、声も変え、顔もデジタル処理でありそうでない顔にマスキングすることで特定されないよう配慮されています。
このディープフェイクは非常に巧妙で、ぱっと見では本物に見えるし、目を凝らしてもそれほど違和感がありません。
最後の方で国に訴えかけることを決め記者会見を開いた当事者の人の顔が、水で洗われるように本当の顔に変化するシーンがありました。すると確かに顔は変わったのですが雰囲気はほとんど変わらず、それでいてこれまでの映像では匿名性が保たれていたわけですから、技術の高さに驚きました。
この技術は鑑賞時に、作中で起こっていることを現実として受け止めることに役立っていると感じました。


語られたり断片的な映像によって知る拷問の様子は本当に恐ろしかったですし、自分が同じことをされたらと思うとゾッとして体が硬直してしまうほどでしたが、一番怖かったのは、指導者が国外の人道団体のインタビューにこう答えていたことです。

チェチェンにLGBTQなんて存在しませんよ。だから粛清も存在しません。

あ、この人は本当にLGBTQというものを憎んでいるんだ。ということが端的に伝わってきて、狂気を感じました。
そうして指導者の思想が国民にこれほどまでに浸透してしまうのは何故なのか。独裁ゆえに容易に起こってしまったのだろうとは思いますが、これまで優しかった人々が価値観の変容によって敵になる、というのはとても悲しいことだと思います。

ロシアというと今センシティブな話題のように聞こえますが、こういった迫害はどこでも起こりうること。危機感を持って対峙しなければならない問題です。
また今回の場合は国がやっていることだから、法律もあってないようなもの。自国内で解決しようとしてもうやむやにされてしまいます。
国内だけではどうしようもない。この横暴を止めるにはどうしたら良いのか。作中の人々はわたしたちに訴えかけてきます。

国が悪いんじゃない、私たちはあの人たちから逃げてきたんだ。

作中のセリフが胸に迫ります。
かと言って今わたしにできることなんてほとんどないに等しいのですが、ともかく、こういう現状があるということを忘れずにいたいと思います。

ではまた。

追記:この映画はパンフレットがなく、関連書籍のみの販売でした。そのためこの記事では公式サイトを参照して書きました。

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