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149. 内田善美 その3 【漫画】

ようやく内田善美のコミックスを全巻読み終えることができました。
今回はアメリカはゲイルズバーグを舞台にした短編集「かすみ草にゆれる汽車」より2作品を取り上げたいと思います。(もう1記事来週辺りに更新予定です。ネタバレありますご注意を)

以前書いた内田善美関連の記事および内田善美の説明はこちら↓


・万聖節に黄金の雨がふる
万聖節前夜(ハロウィーン)、妖精たちは子供を攫い、黄金の館で終夜ダンスをする。万聖節がやってくると彼らは闇に帰り、館は金の雨になって砕け散る。
そんな伝説のある街で出会った少年少女の話です。
病気や生き別れになった母など悲しみを抱えた少年と、天使みたいなアリスの交流が優しく描かれます。

しかしそんな中で妙に心惹かれるのは、二人の邪魔をする自称・パック。美しい顔立ち、なびくブロンド、芝居がかったセリフ。

ね? ほんとにあんた妖精王の好みなんだ
小姓になればずっとその美しさでいられるよ
連れてったおれのかぶもあがる
アリスはおれと あんたは妖精王と
闇の国も気の持ちようでここよりずっと楽しいよ

流れるように口から出てくるこんな妖精らしいセリフやぎくりとするほど鋭い言葉に、本当にパック……?いやいやまさかね、と思っていたらそのまさか。読者もすっかり騙されます。

実の妹だと判明したアリスの身代わりに少年が妖精の世界へ連れ去られる、少し切ないお話です。

内田善美は普通の学生恋愛ものも書いてはいるけれど、人外の美形を描くのがとりわけ上手いと思います。(わたしがファンタジー好きであることを差し引いても)
時期的にもぴったりですし、おすすめです。

・五月に住む月星
こちらは身分違いの恋を引きずる飛行機野郎の話、ですが大人の複雑な恋の事情に振り回される子供の目線で語られます。
空への憧れ、親への愛情、自分にはないものを持っている人への嫉妬など、二人の子供たちはそれぞれに自分の気持ちと向き合って成長していきます。
最後は少女のまだ恋とも呼べないような未分化の思いと共に爽やかに終わる、コミックスの締めくくりにふさわしい作品ではないでしょうか。

時代設定は恐らく第一次世界大戦直後、大西洋横断飛行を目指して盛んに飛行機の改良が行われていた時期。(書いていて思いましたが、第一次の頃と第二次の頃で随分技術力に差があるんだなあ、戦争の規模が大きくなるわけだ……機械とか全然興味なかったんですが、近現代史を理解する上で必要不可欠な要素だと今更ながらに実感。)
ファッションもアール・デコの直線的なドレスに短い髪型で統一されていて、当時の世相を捉えた作品になっています。
ところで日本でも丁度同時期にアール・デコ風ファッションのモボ・モガが台頭しているということは、ファッションの伝播にほとんどタイムラグがなかったということですよね、すごいな。

まとめて読んでいて気付きましたが、内田善美の漫画ってどれもコマの枠線が太くて、背景はベタかトーンか白いことが多いです。気付くとしばらく気になりましたが、コマが一つ一つ独立していると時間が細切れに静止しているような印象を受けるなと思いました。
背景については、本人も後書きで言及していましたが、あまり得意ではないみたい。

ちなみに内田善美はジャック・フィニイの「ゲイルズバーグの春を愛す」の装画を手掛けています。本当にこの街が好きなんだなあ。


しっかし3冊読むのに7時間がかりですから、一作あたりの充実度がすごいです。
ではまた。

内田善美の記事続編↓


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