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15. 内田善美 その1 【漫画】

1970年代から80年代にかけて活動した後、すっぱり消息を絶った漫画家、内田善美。彼女の作品はぜひとも多くの人が読むべきだと思うのですが、元々寡作の上、版権の問題で再版されずどの作品もプレミアがついてしまっているのが惜しまれます。

純粋な夢やおとぎ話を一枚絵に閉じ込める技術が高く、画集の、或いは漫画の中に差し込まれる一枚絵が息をのむ美しさです。
活動時期が花の24年組の黄金期と重なりますし、あの頃の少女漫画をリアルタイムで読んでいた親世代の人たちが羨ましくてたまりません。

そんな憧れの漫画家の作品を、先日広島のまんが図書館で読む機会を得ました。
(旅行で食べた美味しいものについてはこちらで紹介していますので合わせてどうぞ↓)

その後自分でも画集「白雪姫幻想」を購入しましたので、素晴らしい空想世界の一端をご紹介できればと思います。


☆広島市まんが図書館で読んだもの
内田善美作品を書庫から出して頂き、特にわたし好みそうな作品を幾つか読みました。ただの青春恋愛ものじゃなくて、やっぱりSF要素のあるものが好き。

最も気に入ったのがこちら。
◎「星くず色の船」(「星くず色の船」収録)
ふたりの宇宙を夢見る少年少女が、互いに励まし合いそれぞれのやり方で宇宙を目指す話。
※引用部分がネタバレになりうる可能性があります。気にされる方はご注意ください。

絵の美しさもさることながら、言葉の選び方も軽やかで美麗です。

あっちゃん なにしているの?
星をすくったの
ははは……非科学的だ
とってもすてきだ

この非科学的でとってもすてきなところが、わたしの好きな70年代少女漫画には共通してるんじゃないかな~とか思ったり。
がちがちのハードSFではなく、夢とロマンをたっぷり散りばめた不思議な世界。
そこに詩的で哲学的な表現が織り混ぜられます。

かえりたかったんだ
鳥のように 風にのって
やさしさのふりそそぐ愛の中に…
二人の生まれた宇宙の中にーー

だけどラストはこんな具合に、茶目っ気たっぷりに締め括られるのです。

研究論文を制作中なの
「南の島の海べに存する星の砂は
いかにして空から落下したか」

どうしてこんな綺麗で楽しい一文が頭の中に生まれるのでしょう。
こんな研究をしている女の子と友達になれたらな…!


それからこちらも良かったです。
○「銀河 その星狩り」(「秋のおわりのピアニシモ」収録)
環境の変化で人の住める場所が少なくなり、争いを続けている尖耳族と有角族。
一族の王子と敵の少女が仲を深め、悲しみから脱け出して遠くにあるという理想の星を目指します。

この作品の扉の神々しさといったら……!
筆舌に尽くしがたいです。限られた時間の中で、何度も何度も見返してしまいました。細部に至るまでの緻密な描き込み、モチーフの神聖さ、画集の1ページと言われてもおかしくないような完成度です。

そうしてこの一篇の中で最も美しく切ない文。

銀河の水底になぜあんなに星くずがしずんでるかしってる?
死んだ母がね…

私の愛しい子どもたち
あれは夢を負い幸せをもとめて
それをつかまえられなかった人々の魂の玉なのですよ

悲しみにつかれた人々を銀の河はその美しさでまどわしひきこむのです
だから銀の河の水底で夜ごときらめく星くずの玉はーー
人々の化身なんですって

銀河にこのイメージを見る豊かな想像力が、こちらのイマジネーションにも刺激を与えてくれます。
日々の生活で忙殺された心が、こんな煌めくページを繰る毎に蘇るのです。


☆先日購入しました「白雪姫幻想」
想像していた以上に素晴らしい作品群でした。
「パンプキン パンプキン」という作品(未読)の余話だという二編と、表題作、「若草物語」、「薔薇の午後」が収録された画集、絵本と言っても良いかもしれません。

どのページを開いても豪華なイラストが目に飛び込んでくる至福!
特に「若草物語」は髪の流れや背景の柄まで丁寧に描かれていて、豪華絢爛です。
最後の「ルシフェルの木」のみモノクロなんですが、その描き方が話の雰囲気とよく合っていてカラーページにも劣らない魅力を放っています。

絵はたまに水樹和佳や大和和紀に似ているな、と思うところもありましたが、関係性は定かではありません。特に水樹和佳は内田善美よりやや後の漫画家ですし。

本当に買ってよかった。これからも折に触れてページを繰る大事な一冊になりそうです。

内田善美の代表作、本人に「書きたかったことはすべて書いた」と言わしめた「星の時計のliddell」は昔一度読んだことがあるのですが、哲学的で難解な作品のため入手して再読したいと思っています。
いずれ購入しましたら、また記事を書けたらなと。

広島市まんが図書館だけでなく各地の漫画専門の図書館で作品を閲覧できるようなので、お近くにある方は訪ねてみてはいかがでしょうか。夢のような時間を過ごせること請け合いです。

ではまた。


ヘッダーは内田善美が好きだったというエドワード・バーン=ジョーンズの描いた「ヴィーナス讃歌」

内田善美の記事続編↓


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