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151. 内田善美 その4 【漫画】

先週予告していた通り、内田善美の続き。今回は短編集「ひぐらしの森」より。(いつもの如くネタバレ注意!)
これまでの内田善美の記事はこちらからどうぞ↓

・ひぐらしの森
表題作のこちらは、受験から高校入学して一年間に二人の少女の間で行われた心理戦の記録です。

お互い一目見た時から気になっているのに、沙羅の方は素直な感情の表現が苦手でいつもいつもひねくれたやり方で接している。私を見て! と言っているのが傍にいる友人連や読者にはバレバレなのだけど、肝心の相手、萩さんにはいじわるな人としか写らない。彼女は彼女で、美しく自分とは違う階層にいるような沙羅に引け目を感じ、また人と深く付き合うにはどうしたらいいか分からない。
この辺りの心理描写は「星の時計のliddell」に並んで鮮やかです。

まったく、人とどうやって付き合っていったら良いのか。誰かと接する度にコミュニケーションの大変さを思い知らされます。
会話をするのはとても難しい。自分の発言が相手にどう受け取られるか、相手が何を意図して言葉を発したか、それに対してどう答えるか……そんなことを考えながら同時に話さなきゃならないなんて、実際、ハードワークすぎませんか。
考えてばかりじゃ話せないし、かと言って話してばかりじゃ考えられないし、人との向き合い方について、このところずっと悩んでいます。わたしはきちんと相手の人間性を尊重して会話するということができないのでは……? などなど。そんなことに思いを巡らせながら読みました。
少女たちは物語の終盤に分かり合い、既にわたしのずっと先を歩んでいます。

あと、先日内田善美はあまり背景が得意ではないようだという話をしましたが、背景がないと自然と人の顔や仕草に注目します。この作品ではそれが特に効果的であると感じました。

・時への航海誌
幼い頃からの夢をどう実現させるべきか、迷走を挟みつつひたむきに生きる青少年の物語。
話の筋としてはありがちだけれど、彼らの心を捉えているのが古代遺跡ってところは少し珍しいかもしれません。

でもれっきとした少女漫画で、こんなセリフが出てきます。

俺はどんなもので一番俺らしくコミュニケーションできるかもわからないけど
そのためにも今はね いろんなものをみておこうと思うんだ
なんでも吸収して心をうんとおっきくしておくんだ
そしたらほんとうに美しいものは美しくみえるだろうし
おそれることなく偉大なものはおおきいってみとめられるだろうね
そして…淋しい時でも淋しい人がいたらやさしくしてあげられる

こういう純粋でキラキラした言葉は、少女漫画ではよく見掛けるものだけれど、その度に涙ぐんでしまうし、心が洗われるような気がします。尤も、こんな風に生きていくのはとても難しいのだけれど……。(あんまりぐだぐだ喋ってると「ひぐらしの森」の感想に繋がりそうなのでここで打ち切り)


内田善美のコミックスは全部で5冊ありますが、「空の色ににている」は哲学的なシーンが多くて、一回読んだだけではちょっと書けそうにないのでいずれまた。
あと残るは「聖パンプキンの呪文」と「ソノニウム夜間飛行」。
来年中には読みたいな。読むだけじゃなくて手元に揃えられたら最高。

ではまた。

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