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群青の彼方

「あの群青の中には何が詰まっていると思う?」
レトが夜空を指差しこちらを見て問う。
「ジンとバイオレットリキュールと、それから寂寥レモンの絞り汁です。」
どんな応えが返ってくるか期待に満ち溢れていたレトの瞳が退屈に曇る。
「もしかして、まだ昨日のこと怒ってたりする?」
「さあ?自分で考えてみたらどうですか?」
サキラスがふいとそっぽを向いて突き放すように言う。レトが昨晩しでかしたことをまだ許してはくれないようだ。

「子どもっぽいきみも嫌いじゃないけどあれはもう終わった話じゃないか、今夜で最後になるやもしれぬというのにきみは、怒り続けて別れの夜を台無しにするつもりかい?」
「一体どんな死地に向かうつもりなのかは分かりませんが、後悔が残ってたほうがその分意地でも帰ってくるんじゃありません?」
「大した別れではないけれどさ、それでも別れであることに変わりはないだろう?」
「レト、あなたがあの群青の彼方に消えようが、私の元に帰ってこようが、私にはただいつもの日常が変わらずに訪れるということだけです。」
「さよならは、言ってはくれないのかい?」
ペリドットの瞳が真っ直ぐにこちらを見つめるのを、サキラスは無視し続けられる程にレトに怒ってはいなかった。
「アイスキャンディーを。」
「え?」
「あちらではアイスキャンディーが有名でしょう?お土産にそれを買ってきてください。」

「それは、」

一旦口の外に出かけた言葉を飲み込んでにやりと笑う。素直になりきれない友人が、レトは本当に好きであった。

「いそいで帰って来なくちゃだな。」

仲直りも、別れの挨拶もないけれど、次の約束を確かに結ぶ。
銀河に敷かれたレールの上、列車に揺られながら考える。アイスキャンディー、溶かさないままに持ち帰る方法を。

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