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回想電車

『3番線参ります電車は、回想電車です。当駅を通過いたしますので、黄色い線の内側に下がってお待ちください。』

日付も変わった夜の駅、ターミナルに人はまばら。
スピーカーから、アナウンスの声 響き渡る。

『本日は、当駅をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。
終点、終点でございます。お忘れ物ございませんようお気をつけてお帰りください。』

ああ、今日も電車を逃してしまった。

駅員さんがアナウンスを言い終わるとすぐに、僕は声をかけた。
「あの、すみません……。」

「はい、どうしました?」

「あの、感情線が遅延してて、ここ止まりの電車しか乗れなかったんですけど、どうやったら帰れますか?」

「はい、感情線。どちらに行かれますか?」

「あ、ええと、オトトイに行きたいでんすけど……。」

「カコ線のオトトイ駅ですか?」

「はい、そうです……。」

「あー、オトトイ行きね。今日はもう終わっちゃいましたよ。」

「え、そんな!今日中に帰れないと困るんです!」

「そうですか、近くの駅でも大丈夫でしたらご案内できますけど、」

「どこまで行けますか?」

「後悔線サキタタズ駅行き終電があるんで、それに乗って、サキタタズで降りて頂くのが一番近いですね。 あ、お客さん定期持ってますか?」

「あ、はい。あります。」

「それでしたら、感情線の遅延で振り返ることができるので、改札の駅員に提示してください。」

「わかりました。すみません、ありがとうございます。」

「いえいえ、とんでもない。サキタタズから先、回想電車になりますのでお乗り過ごしないようお気をつけください。」

「あ、ありがとうございます!」


_____________

後悔線サキタタズ駅行き最終電車は、思いのほか人がいた。僕みたいに電車を逃した人もいるのかな。ふりかえチケットを握りしめて、僕は電車に揺られながら考える。
感情線が遅延して、オトトイ駅で待っている、君に会えなかった時のことを。

『明日の電車、10:35発のに乗る。待ってるから。』
君からのメッセージはいつもシンプル。
君にあんなこと言った僕は、どんな顔して見送ればいいと言うのだろうか。
結局、返事は返せなかった。臆病で、卑怯な僕は変わらない、変われない。

感情線は各駅停車。ゆるゆる走って、ぐらぐら揺れる。
一昨日、駅で待っている君に会えなかったその訳は、感情線の遅延のせい。なんかではなくて。
自分の感情を見送って、わざと乗り過ごした僕のせい。
結局一歩を踏み出せず、降りれなかった僕自身のせい。

あの日に戻ることが出来たなら。オトトイ駅に行けたなら。
何かを変えることができたのだろうか。どうしようもできない後悔が、僕の中をぐるぐる巡る。

後悔線で揺られてる、僕の心も揺れている。

『次は、サキタタズ、終点サキタタズでございます。心残りございませんようお気をつけてお過ごしください。』

電車の中、アナウンスがこだまする。いつの間にやら、僕だけひとり。

『この列車はサキタタズで、未来線急行アシタ行きと待ち合わせを致します。オトトイ、キノウには止まりませんのでお乗り換えのお客様はご注意ください。次はサキタタズ、サキタタズ、終点でございます。』

このままオトトイに戻ったところで、僕を待ってる君はいない。
そうこうするうち電車は止まる。
どうしようか、迷う時間はもう終わり。
扉が閉まるベルが響いた。

僕は、

僕は。__

後悔線から飛び降りて、アシタ駅行きに駆け込んだ。
このまま君に会いに行こう、アシタの君に会いに行こう。
もう決めたから、今度こそは乗り間違えない。
始発で君に会いに行こう、明日の君に会いに行こう。


___________

『本日も当駅をご利用頂き、誠にありがとうございます。2番線アシタ行きは最終電車となります。どうぞ、お乗り遅れないようお気をつけください。本日は誠にありがとうございました。』


おわり。

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