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月のウサギ

つきのうさぎはひとりきり
大きなつきにひとりきり

うさぎはいつも泣いていた
ひとりさみしく泣いていた

宇宙をまるごとぜんぶひっくりかえして
めんたま皿にしたっても見つからない
ぼくより不幸なやつは見つからない
ぼくよりひとりは見つからない

ぼくだけがいつもひとりきり
だれもちっともみてくれやしない
だれもちっともきづいてくれやしない
だれかに好きになってほしいのに
だれもいないから叶わない
だれかに好きなってもらっても
ひとりきりだとわかりゃしない

ぼくはいつもひとりきり
ぼくだけいつもひとりきり

あんまりうさぎが泣くもんだから
涙で出来た、みずたまり
零れ落ちた涙でできたまんまるまあるいなみだまり

なみだまりみてうさぎはなげく
なげくと溢れるしょっぱいしずく
どんどん、どんどんうさぎは泣いた

どんどん、どんどん大きくなってくなみだまり
さいしょのころはみずたまり
いまでは池より大きななみだまり

ある日の夜
大きくなったなみだまりに、ぽつんとひとつの光が落ちていた。
うさぎはあわてて水辺にかけよる
よく目をこらして見てみると、

そこには月が落ちていた

うさぎは思わずかおをあげる
ひさしぶりに空をみる
見上げたさきにそれはいた


そこには月が浮かんでいた。


夜空にぽつんとひとつきり
まんまるまあるいお月さま

ぽかんとみあげて眺めていると
自然と涙も止まっていった

うさぎは気づく
月にもウサギの影がある。
じぶんとおんなじ影がある
たったひとつ、影がある。

つきのうさぎとおんなしように、
月にもウサギの影がひとつ
ひとりきりの影がひとつ。

うさぎは笑った
はじめて笑った
ひとりがもうひとり、そこにいた
ひとりだけどひとりじゃない

ケラケラ、カラカラ声だし笑う
うれしくってうさぎは笑う
おかしくってまた笑う

ひとりだけどひとりじゃない

それがこんなにうれしいなんて。

悲しくないのに涙が落ちた
さみしくないのに泣けてきた

つきのうさぎはひとりきり
月のウサギをみあげて笑う

ひとりきりがふたりいる
うさぎは知ってる
うさぎがひとりじゃないことを
うさぎは知らない
寂しくないのに泣けるワケを
それでもうさぎはしあわせだった
その時たしかにしあわせになった





つきのうさぎはひとりきり
大きなつきにひとりきり

それでもちっともさみしくない
だってかおをあげればそこに
いつでもまあるい月がある

月にはおなじく影がひとつ
ウサギのかげがひとつきり

うさぎはちっともさみしくない

ひとりがもうひとり。あわせてふたり。
うさぎはウサギを知らないけれど
ウサギもうさぎを知らないけれど
おんなじひとりきりどうし
うさぎはウサギがだいすきだった。

かおをあげればそこにいる
ひとりきりの月の影 


うさぎはちっともさみしくない。




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