リオリアの洞窟
200年に1回、月も風も雲も出ない夜がある。
その夜、リオリアの洞窟への入り口はひらかれる。
ゴツゴツとした岩の迷路を抜けて、鍾乳洞の広間へと出るとそこは淡いサファイアブルーの湖が広がっている。
湖の真ん中の方、少し碧い色したところを、まっすぐに潜っていくと底の方に人ひとりがやっと通れる程の隙間がある。
そこに頭をねじ込んで突き進むと、ぽっかりと小さな空洞がある。
空洞の奥の方、粘土質の土からもう少し硬い土が出ているところにその石はある。
土と岩の間、掘り起こすとごろごろ転がって出てくる、茶色いまる。
その茶色に薄く切れ込みを入れると、中からツルツルの石が出てくる。
それは200年で出来上がる、薄ピンク色したまあるい石。
食べるとライチの味がする。
サファイアブルーの水を染み込み、うるうるたっぷり潤った石は、砂漠の中でも枯れない水源となるのだ。
舐めると甘い。齧ると酸っぱい。
丈夫な皮袋にでも入れておけば、ずっとたっぷりの水筒になる。
リオリアの石はそれはそれは貴重な筈なのに、その知名度は殆どない。
なぜなら彼らは人を選ぶから。
持ち主を。彼らを探し求め、使う人間を。
彼らに認められない人間が石を身に着けると、途端に腐り落ちてしまうのである。
代替わりで受け継ぐことも難しい。
欲をかいた誰かが石を手にしないとは限らない。
欲目に走って貴重な石を腐らせた人間は、それこそ山のようにいるからだ。
彼らに選ばれたものしか身に着けることのできないリオリアの石は、
その鑑定士も選ばれたものだけがなることが出来る。
リオリアの石を腐らせることなく見つけ、運び出し、彼らにふさわしい人間を見定めることが出来るものでなければ鑑定士にはなれない。
200年に一度しかリオリアの石は採掘ができないから、鑑定士の技術を確かに伝えることも重要なことなのである。
その歴史が未だ絶えることがないのはきっと
リオリアの石に魅入られたものは少なくない、という話であろう。
閉ざされた洞窟の奥底で、未だ眠るリオリアの石たちは
淡いサファイアブルーの水をその身に受けて、
いつか己に相応しい誰かとめぐりあえるのを待っている。
どうか、気に入った人と添い遂げられるように、
鑑定士たちは出会わぬままに終わる石のため、
今日も弟子に教えを伝える。
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