月とコーヒー

お気に入りのマグに入れたコーヒー、少し濃いめで、苦くて酸っぱい。
お湯で薄めてアメリカンにしたり、はちみつを垂らしたり、ミルクをたっぷり入れるときっと、ちょうどいい。

月が落っこちて来そうな夜。
ひとり、静寂に包まれる。

こういう時はなんだか、テレビやラジオの音はやけにうるさくって、だのに消したら静かすぎて居心地の悪い。

コーヒーは苦くて、熱い。
座り込んだソファにずぶずぶと沈む。
沈んで、沈んで、沈み込んで、まるで液体になったかのよう。

ドゴォン!

窓の外から大きな音が聞こえて来る。
ああ、落ちてきちゃったか。

まんまるまあるいお月様、時々自分の重力見誤って、こっちの方へ落ちてくる。

さっきまでの静けさも、あっという間に吹っ飛んでいった。

新しく、戸棚からマグカップを取り出す。
手に持っていながらほとんど飲んでなかったコーヒーをそこに半分。
あっためてはちみつを垂らしたミルクをもう半分ずつ。

コーヒーミルクをふたつ作って窓を開ける。
自分の分に口つけながら、落ちてきた月にマグカップを渡した。

月は喜んで受け取って、それから美味しそうにそれを飲んだ。

濃いめに淹れたコーヒー、苦くて酸っぱい。
はちみつ垂らしたたっぷりのミルクをいれて、まろやかにする。

月が本当に落っこちて来た夜。
落ちてきた月は随分とおしゃべりで、その日の夜はいつもよりずっと長かった。

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