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「旅することへの憧れと葛藤」ノマドランド感想

nomad【遊牧の民・遊動民・放浪者】

一時期ノマドワーカーという言葉が流行った。
文字面からてっきり「定職に就かずに自身のスキルで職を転々とする働き方かな」と思っていた。
実際は「PCやスマホを使い会社以外の場所で仕事をする人」という意味らしい。案外小さい意味合いで私は少し拍子抜けした。

2021年度アカデミー賞「作品賞」「監督賞」「主演女優賞」に輝いたクロエ・ジャオ監督の「ノマドランド」。

簡単なあらすじはこうだ。

不況の煽りを受け、亡き夫が働いていた会社が倒産。お膝元の街も廃れてしまい、妻であった主人公ファーンはバンでの車上生活を始める。
生活の糧はアマゾンの倉庫での力仕事やキャンプ地の掃除など決して容易くない期間労働だ。
しかしファーンはその地その地での車上生活者との交流を続けながらも、決して定住することもなく一人旅を続ける。

これだけ聞くと、暗くて重い映画と感じるかもしれない。しかし映画全体の雰囲気は不思議と開放感のようなもので溢れている。

その理由の一つはアメリカの雄大で美しい自然。サボテンが自生する荒涼とした大地に、見とれていると吸い込まれるような夕焼け、見渡す限りの雪原に遠くに聳える険しい山脈。

そして何よりも主人公であるファーンが車上生活を楽しんでいること。
他の車上生活者とディナーを楽しんだり、自身のバンを自分好みにカスタマイズしたり、まさに自由奔放。
なかでも国立公園の砂山を一人でトコトコ歩いてみたり、天体観測会で望遠鏡を覗き込むシーンでは少女のようなキラキラした眼をしている。


決して裕福とは言えないファーンの暮らしだが、スクリーン越しに見ていると、ロードムービー独特の「羨ましく思う」気持ちが沸々と出てくる。

いつだって私たちは常に旅することに憧れる。
「深夜特急」「ドラゴンクエスト」「水曜どうでしょう」・・・
それを住宅をもち、家族を持ち、そして安定した収入を得れる会社員の「決して旅ができない立場」から指をくわえて見ている。

事実、私たちのルーツは狩猟採集民。定住せずにフラフラと食料を求めてさまよい、生活場所を転々としていた。
私たちがファーンのような生活にどこか憧れてしまうのは、人間の本能が奥底から呼びかけているのかも。

それなのにファーンの生き方をどこか遠い人々のものと捉えてしまう私たちは、今の形作られた生活に危機感を抱かなければならない。

それでも私は自分の生き方に満足できずに、悩み続ける。

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