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【読書感想文22】幸せってなんだっけと考えさせられる「絶望の国の幸福な若者たち」

日本は先進国の中でここ30年ほどほとんど成長せず、お先真っ暗だと色んな人(どんな人だかはよくわからないが)が言う。事実日本のGDPはこの30年間ほぼ横ばいで、GDPは中国に抜かれ世界2位となり、国民一人当たりの労働生産性は国際的に見て低い(らしい)。

さてそんな落ち目の日本であるが、今後の日本を担う若者たちはどのように考えているかが本巻の主題である。今の若者は将来に絶望し、自分達の境遇を嘆いているのだろうか?

今の若者の60%は現在の生活に満足している。

この割合は成長真っ只中の1980年代や、バブルの余波が残る1990年代よりも高い。むしろこの時期は現在の暮らしに満足している若者の方が少なかった。

考えてみれば当然かもしれない。昔の方が労働環境は厳しく、パワハラやセクハラが当たり前で、長時間残業が当たり前だった。しかし当時は将来はもっと良くなると思って我慢していたのである。逆に今は将来明るくなる展望がないから、今の方がいいやと考えるらしい。

それに対して中国ではどうかというと、これまた興味深いデータがある。GDP世界2位、今後世界の覇権を握るかもしれないという成長著しい中国の若者はさぞかし幸福だろうと考えるとそうでもないらしい。特に蟻族と呼ばれる高学歴のワーキングプアの若者で、現在幸せだと言う人は1%もいないらしい。競争が激しすぎてそんな余裕がないのかもしれない。

対照的なのが農民工と呼ばれる、農村出身の中国人である。中国では農村で生まれた人民は農村戸籍、都市で生まれた人民は都市戸籍で分かれる。農民戸籍を持つ人は都市に住むことができないが、出稼ぎとして都市で働いている。この農民工の80%以上が現在の生活に満足している。彼らにとって都市戸籍を持つ人たちは別次元の存在であり、羨むことすらしないらしい。

今と昔の日本、中国の農民戸籍と都市戸籍の比較を見ると、幸せというもののジレンマが見えてくる。人間の心理はどうやら希望や自由があれば幸せを感じるものではないらしい。むしろ一定の制約や不自由があった方が現状に満足して、幸福だと感じるらしい(実際どうかは関係なく)。

超大雑把に言って、要は幸福かどうかは気の持ちようなのかもしれない。

以降は本筋から離れた余談である。

昔から「今の若者はなっとらん」と言う人は必ずいる。これは一般人でも知識人でも変わらない。すごい影響を持つ著名人でもこういうことを言っている。実際私もアラフォーになって、今の20代に対してちょびっと思うところはある。

だがそもそも若者という定義は極めて曖昧である。公式な統計でも30歳以下であったり、40歳未満だったり定義は様々である。案外自分より年下であれば強引に当てはめてしまうのかもしれない。特定の個人を拡大解釈しているのかもしれない。そのような視点は非常に危険である。

なかには若者に好意的な大人もいる。しかし若者諸君はぜひ理解ある大人に注意していただきたい。理解ある大人は平気で切り捨てるからである。これも古今東西変わらない。今の政治家を見てもそれはわかるだろう。

戦前においては若者を褒め称えて戦場に送り込んだ。現代においては起業などのチャレンジを賞賛する大人には注意が必要である。彼らは自分達は安全地帯にいて、若者を危険地帯に送り込もうとする。これも古今東西同じ法則がある。

結局若者ってなんだろう?幸せってなんだろうと考えさせられる本であった。

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